第七十二話  君と僕と
 仁志はかなり耐えていた。
『真人に会いたい、会って抱き締めたい』
 何度か南中道とは肌を合わせた。
 しかし抱かれるのではなく、抱きたい―そう思うようになった。
 仁志が自分から抱きたいと思ったのは南中道が初めてだ。今まではずっと何かをしてもらおうと甘えていた、でも今の仁志は違う。南中道のために自分から役に立ちたいと本当に思い実際動いている。
 まず。退職金でマンションを買った。犬も飼い始めた。
 …仁志は南中道が初めて声を掛けてきたとき、小太郎を連れていたからだと信じている。南中道が犬好きだと勘違いしているのだ。
 実家から全ての荷物を運び出し、南中道との同居を夢に見ながらバイトを始めた。塾の講師だ。
 南中道が会いたいと言ってくれるのを待つ日々が続いた。


「カズくんからは何の連絡もないのか?」
 南中道からはかなり憔悴した表情が伺えた。
「嫌われたかもしれない」
 南中道の、気弱な発言に尋之は驚きを隠せなかった。