尋胤は悩んでいた。
南城は自分に忠実だ。
しかしそれは南中道に支配され続けた心と身体が、未だに支配されることを望んでいるためかもしれない。
「愛している」と、口にすれば簡単なのかもしれない。
しかし尋胤もまた、仁志という幻影に支配されていた。
会いたいとか抱きたいとかではない、今まで散々愛を囁いた相手が仁志だったということだけだ。
南城が仁志を知らなければそんなに躊躇することもなかった。
毎晩抱いて、泣かせて、腕に抱き寄せて、口づけて…そんな妄想を抱かせてくれる初めての相手だ。
仁志はただの身体の関係だけだった。だからむなしい。
そのむなしさや悔しさを南城で埋めているだけかもしれないという、不安要素を抱えているのだ。
「ばかばかしい」
そう言ったのは尋之だ。
「かずくんに言えたことが南城に言えないなんて変だろう?」
その時、尋胤は気付いた。
「ヒデは言えたのか?東埜に止めてくれと。」
尋之の表情が揺れた。
「お前もバカらしいな」
尋之はプイッと横を向くと不機嫌になった。
「だって、真人のこと、忘れさせてくれるって言うから。オレは別に、女の子に限定するなら不自由はしていないと言ったら俺もそうだったって。仕方がないんだ。」
二人ともに言い訳を必死で探していたのだ、愛してると言わなくても良い理由を。
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