| 「え?就職、決まったんですか?」 「うん。森林食品。そこの開発部開発課だって。」
 南中道が小さく「あっ」と言ったのを仁志は聞き逃さなかった。
 「何か問題があるのか?」
 ふるふると首を振る。
 「真人が困ることはしないから」
 もじもじと言い出し辛そうにしていたが、意を決したかの様に顔を上げた。
 「母方の大叔父の会社です」
 小さく溜め息をついた仁志を南中道は見逃さなかった。
 「でも、叔父は和隆さんと僕のことは全く知らないから…」
 「違うよ。真人は住む世界が違うなと思ってさ。」
 「え?」
 「真人の家族はみんな自分の進むべき道を見つけて自分の力で歩いてる。それに比べて僕は不甲斐ないと思っただけ。」
 真人は困ったような顔で何か思案しているようだ。しばらくすると重い口を開いた。
 「みんなわがままなんです。やりたいことはやらないと気が済まない。だけどあとのことなんて誰も考えていない。同族経営をする気はないから全て能力のある人に譲るっていっています。大叔父も歳ですから、和隆さんにもチャンスはあります。いや、別に経営をしろといっているのではなく…大叔父は…結婚してなくて…」
 仁志は苦笑する。
 「分かってる。真人はどうするのかな?やっぱり研究畑希望?」
 南中道の顔がぱっと輝く。
 「はい。だけど祖父が理系は使われる立場にしかなれないといいます。雇用者になるなら文系だと。」
 「思うんだけど真人の家は財産があるんだから真人は使えばいい。そして研究に情熱を注げばいい。」
 仁志が言いたいことを南中道は理解している。理解した上で「二人で使いませんか?」と、仁志を誘った。
 
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