第八十三話  求婚
 何を望んでいるのだろう?
 尋之は東埜に抱かれる度に考える。
 彼は自分に何を望んでいるのかと。
愛している
 その言葉は麻薬のように尋之を甘美な世界へ引き込む。
 東埜は尋之を南中道から引き離す為に誘惑しただけと分かっている。
 だから辛い。

「かお…るっ」
 背中に回した腕に力を込める。
「尋之、一緒にアメリカへ行かないか?」
「アメ…リカ?」
 ぼんやりとした頭で考える。
「やだ…芳の元妻がいるから…」
「元妻っていってもヤってないし…勃たないから。尋之ならさらってでも連れて行く。」
 ヤってない?
「カズくんと寝たくせに、真人を強姦したくせに…」
「和隆は仕方ないだろ?南中道くんは…まあ、な、和隆への餞別だ。」
「いつから、オレのこと好きだった?」
「大学で見たときから。俺は和隆とは違って子供は趣味じゃなかったんだけどな。」
 照れ隠しのように東埜が動きを速めた。
 激しく揺すぶられていよいよ思考が停止した。
「アメリカ、行くからな。」
「あんっ…あんっ」
「あんじゃなくてうんだろ?」
「いやっ…あ…うんっ」
 行きたかった。東埜と一緒に行きたかった。
「よし。尋之は俺の嫁にもらった。」
 嫁にはいかねぇ!と、心の中で叫んだ。