第八十四話  夢
「相続出来るのは僅かですけど、それを使って研究所を作りたいんです。ちゃんとスポンサーも探しています。和隆さんにも蟻の研究、見て欲しいんです。たまに乗馬にも付き合ってくださいね、最近全然行ってないから乗馬クラブから馬を引き取ってくれって文句言われました。あの仔は本当は競走馬になるはずだったんだけど、祖父が僕のために強引に買い取ったんです。でも僕は知ってます、あの仔は脚が曲がっているから競走馬になれても一杯賞金を稼げる中央へは行けなかったんです。地方でイヤになるほど走らされて最後は屠殺場へ回されるんです。だから祖父は買ったんです。馬は可愛いんですよ、和隆さんは乗ったことありますか?」
 南中道は一気に話すと大きく息を吸った。
 仁志はそんな南中道の肩を抱き寄せた。
「大丈夫、どこへも行かないから。」
「和隆さん」
「ん?」
「研究所の隣に厩舎を建てても良いですか?」
「ああ」
「いつか、馬場が作れるくらい広い場所がいいなぁ・・・」
 仁志は南中道の望みを叶えてやろうと思った。
 父に、もう一度父に会いに行こう。
 そう、思った。