第八十七話  少年愛
「ただいま」
 三日振りに自宅に戻った南中道は家の中に声を掛けたが返事はなかった。
 家族は三人。父と母と南中道。しかし父と母が共に家にいることは皆無だ。それぞれに職場近くにマンションを借りている。
 両親が一生懸命働くのは楽しいからだと聞いている。南中道に残すためではない。
 祖父の教育方針もそうだが両親は何もかも自分の力で成し遂げることこそが人間として生まれた一番の楽しみだと信じている。
 だから南中道にも必要な資金援助はしてくれるが自分で事業を起こせと言う。
 南中道は研究畑なので事業に直結しない、それが問題なのだ。
 和隆とは目指す方向は同じだから将来に一抹の不安があるのだ。
 夢は叶わない気がする
 南中道の最近の悩みはそんなところだ。


「あ…んんっ…」
 ドアの前に立ち尽くす。今日も部室で東埜に尋之が犯されている。
ガラッ
 勢い良くドアを開ける。
「外に筒抜けです」
「聞かせてるんだ」
「クビになりますよ」
「構わない。尋之とセックスするために代用教員になったんだからな。」
 平気な顔で行為を続ける。
「あっ…かおるぅ…」
 尋之の腕が東埜の背中にしがみつく。
「イキそう」
「出すなよ、中だけでイケッ」
「んんっ…無理…出ちゃうぅ」
 語尾を伸ばしながら尋之は射精した。
「昔…」
南中道は二人の姿をじっとみながら続けた、
「古代ギリシヤでは少年が大人になる儀式として同性愛を容認していたそうです。キリストでさえ同性愛者だったらしいですから。人間が愛する人を一人と決めたことに間違いがあるんです。僕は…尋之を愛していた、これは間違いないです。でも、今は和隆さんのことしか考えられない、そうしむけたのは東埜さん、あなたです。」
 東埜は鼻で笑う。
「尋之にはアメリカの大学で生物学を学ばせてやろうと思う。これが俺の尋之への甲斐性の見せ場だ。」
「なん、で、生物学…」
 尋之が並べた机の上から上半身を起こす。
「カラス、調べていたじゃないか。あれだけの論文なら英訳すれば入試が通る。」
「待て!英訳も無理だがあれは部活の一環で誰かに見せるとかじゃなくてさ…」
 南中道には初耳だった。尋之がカラスの行動を研究していたなんて。
「南中道、さっきの説、間違って解釈してるぞ。儀式じゃなくて法律で少年だけと限定していたんだ。ちゃんと本読めよな。」
 南中道は小さく頷くと理科準備室へと消えた。
「邪魔が消えたからもう一回、するか?」
「ばーか、二度とあいつの前ではしたくない!」
 尋之が大声で否定した。