第九十二話  深夜の訪問者
 深夜、玄関チャイムが鳴った。
「南中道悪かったな、長い間わがままなヤツを預けてて。尋之、行くぞ。」
「イヤだ!アメリカには帰らない!」
「バーカ。俺が何のために時間を掛けて迎えに来たと思ってるんだ?少しは俺の性格を把握しろ。東京に帰るぞ。」
 キョトンとして尋之は東埜を見つめていた。
「東京支社に転属してきた。好きなことすればいい。悪かったな、無理に生物研究なんかさせて。お前は物を作る仕事がしたかったんだってな。」
 尋之が俯く。
「オレ、どうでもいいんだ。芳が一緒にいてくれれば。ヒモでもいい。毎日顔見て笑ったり喧嘩したり出来ればいい。」
 ドン
と、音をたてて東埜の胸に飛び込む。
「東京の下町で工場に勤めてロケットの材料を作りたい。」
 泣き笑いの顔で東埜に語る。
「それは無理だ。零細企業だからな、求人していない。」
 ふくれっ面の尋之の目は笑っていた。


 南中道は泊まって行くよう伝えたが、野暮だと言われ納得した。
 今頃二人はラブラブなんだろうな…と思うと胸が痛む。
 先日、突然現れた仁志は出張でとんぼ帰りだった。次に会えるのはいつだろう?
 毎日、仁志を思って過ごせるだけでも幸せなのに、あの二人みたいに抱き合うことは、過分な幸せとあきらめている。
 全ては自分の力が足りないからだ。
 いい気になりすぎた。
 さんざんわがままをしたがために、今そのつけが回っただけだ。
 仁志には悪いが、今しばらくは寂しい日々を送るのだろう。
 しかし。
 再び玄関ドアを叩く音がした。