| 「ごめん、真人…」 仁志は今、最愛の人に背を向けた。
 「なん…で?せんせ…」
 南中道は意識せずに先生と呟いていた。
 「君は、僕のこと先生って呼ぶけど先生として接したことはないよな?いつも、真人の方がリードする存在で、僕は情けなくて…」
 言いながらも仁志にはその役割分担が間違っていないことを知っていた。
 「和隆さんは勘違いしているんです、違うんです、僕はあなたを追い出すつもりなんてなかった。少し考える時間が欲しかっただけなんです。あなたが成功するなら、今度は僕があなたに頼っても良いのだろうかと…図々しいですよね?ずっと意地張って生きてきたのに。」
 仁志は振り返った。
 「本当なのかな?」
 言うと南中道を抱きしめた。
 「頼ってくれるのか?」
 「和隆さんが許してくれるなら。やっぱり研究がしたいんです。大学に戻りたい。」
 「行かせてやるよ。僕は教師が向いているとわかったから。」
 散々悩んで向いていないと思った教師の道を再び歩こうとしていた。
 「真人。」
 「はい」
 「考えていることがあるなら話して欲しい。会えないのは辛い。遠くに離れるのはイヤだ。」
 「はい」
 「愛してる」
 「僕も、愛しています…先生」
 抱きしめる腕に力がこもる。
 南中道の腕が仁志の腰にそっと回された。
 
 
 「かーおーるー」
 尋之が東埜を追い回しているのは訳がある。
 「なんであの二人を別れさせようとしたんだよ!」
 「違うって、逆だよ逆!」
 「何が逆なんだ?」
 「和隆は根性なしだし、南中道は意地っ張りだからそれを逆手に取ったんだ。たぶん今頃うまくまとまっているはずだよ、うん」
 なんだか最近、この二人も立場が逆転しているような…。
 
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