第九十七話  仁志と南中道
「先生、今度はわたしー!素敵な彼氏はいつ現れますか?」
 南中道はわざと大きくため息を付く。
「だーかーらー、何回言ったら分かるかな?好きな人が自分をどう思っているか?を聞いてくれって。そんなこと僕に分かるわけないだろ?ここは行動心理研究会なんだから。」
「あーん、じゃあ先生は私のこと好き?」
 その言葉に南中道は仁志を振り返る。
「仁志先生、この子が僕に自分を好きかと聞くんですが何と回答したらいいですか?」
 水槽とにらめっこしていた仁志はうっそりと振り返る。
「ばーか、南中道は俺が好きなんだよ。」
 言うとまた、水槽とにらめっこを始めた。
「本当に?」
 南中道は苦笑した。
 女生徒は「また来まーす」と、悪びれもせず部室をあとにした。
 宣言通り、仁志は南中道の勤める学校にやって来た。仁志は生物、化学、物理が担当だ。南中道は生物と天文学を受け持つ。
「…尋之は宇宙科学が専門だったんだな。」
「ええ。知りませんでしたか?ずっと星を研究していました、部室で。なんであんな論文書いたかな?」
 仁志が突然笑い出した。
「宿題忘れた尋之が真人の論文出しただけだろ?」
 仁志はなんだか肩の力が抜けたのか、口調がすっかり砕けている。
「バレてました?」
「夏休みの宿題なのにな」
 二人は朝も昼も夜も一緒。飽きもせず離れていた時間を取り戻すかのように常に寄り添っていた。
「尋胤がさ、南城を家に監禁しているって聞いたんだ。だけど人目に晒したくないだけなんだってさ。尋之は嫌がったのにな。」
 途端に南中道は不機嫌になった。
「先生の口から昔の男の名前は聞きたくないです。僕は言わないのに。」
「言わないけど会うじゃないか。」
「会ってもセックスはしません」
「なんか僕は尋胤とセックスしてるみたいな口振りだな。大体尋胤は責めで今の僕は攻めだから喧嘩になるじゃないか」
「確かに尋之と僕はどっちでもイケますからね」
「なあ、下ネタは家でやらないか?」
「そうですね」
 互いに顔を見ると大爆笑した。