第二話  通学路
「先行くぞ」
 湊はさっさと家を出た。
「遙!あんたも早くご飯食べて出掛けなさい。」
 母親に急かされてご飯に味噌汁をぶっ掛けてかき込み、慌てて飲み下すとすぐに立ち上がり鞄を手にすると玄関を飛び出した。
 ふと、湊が朝は二度歯磨きをすると言っていたことを思い出した。
 歯磨きをしなければならないような理由を考えながら歩いていると、背後から足音が近づいてきた。
「遙ちゃん、おはよー」
 遙の幼稚園からの幼なじみ、島田 潤(しまだ じゅん)が声を掛けてきた。
「おはよー。なあ、潤は朝、歯磨き何回する?」
「一回!起きてすぐ。なんで?」
「起きてすぐと朝飯後に磨くのは珍しくないかな?何か理由があるのかな?」
 ゲシッ
 今朝、二度目の足蹴である。
「遙は虫歯が多いだろう?」
 突然挨拶もなしに遙の尻をけ飛ばしたのは才田 響(さいた ひびき)。
 ちなみに遙、潤、響は同級生で幼稚園からの幼なじみだが、響は湊と同じ一流進学校に通っているが遙と潤は三流高校だ。
「痛てーな!貴様にゃあ、聞いてねーんだよ!」
「俺が親切にお前の疑問に答えてやったんだろう?食べ物を口にしたら三分以内に歯磨きをしろと幼稚園で散々言われただろう?俺は昼休みにも磨くぞ…っておい!聞いてなかったのか!」
 道の真ん中に突っ立ったまま得意気に話をし続ける響を放置して二人はさっさと駅へ歩いて行ったのだった。


「あ、遙、潤おはよう。」
 定時に電車に乗れれば、ホームで海野 航(うみの わたる)に会う。航は生まれてすぐに雑誌のモデルをやっていただけあって、背は高いし顔も女性が好意を抱く感じで造作がいい。…まあ、極度の人見知りで物心ついたときには本人の意思でモデルを辞めてしまっている。
 最近は処世術を身につけ、人当たりもよくて遙たちの高校では人気者の一人だ。成績もいつも十位以内に入っている。…なぜ同じ高校にいるのかが、万人のなぞである。
「航は朝、何回歯を磨く?」
「歯を磨くのは朝起きてからだけだけど飯食って出掛ける前に液体歯磨きでブクブクしてくる」
 航が「ブクブク」と表現するのは容姿の整い方に鑑みるといまいち合わないが昔からの付き合いである遙と潤には別に普通のことである。周りの視線を気にしなければの話だが。