第三話  通学電車
「朝からやたらと歯磨きにこだわっているけど何?」
 のんびりした性格の潤だが、電車に乗ってやっと遙の言動に気付いたらしい。
「んー、兄ちゃんがさ、二度歯磨きしてたからさ」
 潤は納得した顔で大きく頷いた。
「湊さん、怖いもんね。」
 遙は潤の言葉に首を傾げた。湊が怖い…とは違う、湊は遙に優しい。だけど外では無口なのだ。
「兄ちゃんは航が無愛想になった感じかな?」
「へー、意外だな。響と僕はいつも睨まれててビビってたよ。」
「それは目が一重だからだよ、あれで笑ってるつもりなんだ。」
「ふーん。でも遙と湊さんって顔が似てないよな。」
「で?何で歯磨き二回するのか聞けなかったんだ?」
 遙と潤の会話を聞いていた航が最初の疑問を投げかけた。
「聞けなかったんじゃなくて後から疑問に感じたんだよね。」
 電車は一つ目の駅に停まる。乗客が乗り降りして総数はあまり変わらない。
「じゃあ帰って聞けばいいよ」
「そーだなー」
 遙は歯磨きの疑問を湊に聞くべく、一度封印した。
「湊さんって勉強教えてくれる?」
 潤が唐突に遙へ質問を投げかけた。
「自分でちゃんとやった結果、分からなかったら教えてくれる。」
「ボクにも教えてくれるかな?」
「わかんない」
 遙は返答しながら無理なのではないかと思った。
「意外なんだけど恥ずかしがり屋なんだ、兄ちゃん。」
「へー」
 言ったのは航。
「遙の兄貴なのに意外だな」
 二つ目の駅、下車駅に着いた。
 三人は電車を降りながら話を続けた。