パタン
弁当箱を勢い良く閉めると鞄の中に押し込んだ。
周りでは次の授業の準備をしている場合が多いのだが、「行くよ」と、声を掛けたのは遥だ。
仲良し三人組の遥、潤、航は毎日昼休みには社会科準備室に通っている。
「先生、来たよー!」
張り切ってドアを開けるのも遥。
本当は中学生みたいに運動場でボール遊びとかしたいのだが高校生になったら誰も外にいないので、小心者の三人は仲良しの教師の所へ日参しているのだ。
「猿渡先生、昨日の続きが聞きたい!」
猿渡先生と呼ばれたのは教師歴二年目の新米で、日本史の担当。この学校に日本史の教師は猿渡しかいない。
「どこまで話したっけかな?」
「源頼朝が北条政子に迫られて落ちたとこ!」
「あー、そうかー」
三人は猿渡に日本の昔話を聞きに通っていたのか?
「年上の女房ほどいいもんはない、って諺があるだろ?」
「金の草鞋?」
「当たり。でもそんなのは嘘なんだよ。ただひたすら恐怖の対象なんだ」
なんだか話が…違っています。
「だから、嫁さんは若くて可愛くて従順な子を選ぶこと」
「先生の彼女も可愛い人?」
途端に黙ってしまった。
「まさか…金の草鞋?」
黙ったままこくりと頭を縦に振る。
「小さいときから支配されていたんだ」
「あちゃー、最悪。」
三人は同時に呟いた。
「可愛い子かぁ」
航が言う。
「遥ちゃんも可愛いよね」
「またその話?」
「遥は違うだろー?」
「…」
それぞれに思うところはあるようで。
結局、社会科準備室は雑談に来ているようで。
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