「協定ってなに?」
痛む腰をさすりながら遙は航に聞いた。
「遙ちゃんを黙って見守る会の会員協定。遙ちゃんには手を出さないのと…」
「二回も出したくせに」
「ごめん。だけど、好き…なんだ」
「…うん」
遙は航の「好き」にほだされていた。
「…待って。協定って兄ちゃんも?」
「うん。遙、湊さんの気持ち、聞いてないのか?」
首を左右に振りながら「全然きいてない」と答えた。
「なら…協定は破ってない…のか。まずいなぁ。」
遙は気付いていない。『遙ちゃんを黙って見守る会』などというものが存在すると言うことは会員がいるということに…。
「ただいま」
「遙!」
血相を変えて飛んできたのは湊に…響だ。
「ちょっと、来い!」
外から帰ったのに手洗いもうがいもしていないまま自室に連れて行かれた。
「遙、さっきの電話は、なんだ?相手は誰なんだ?」
そこではじめて響も会員なのかと気付く。
「教えてあげてもいいけど、いじめない?」
真剣な顔で問う姿は可愛らしくて滑稽だ。
「航とセックスした」
「強姦だろ!」
「あんな奴で練習しなくていい!」
三者三様…いや、二者二様か。
「…兄ちゃんのせいだからな。兄ちゃんのせいで航に…オレは女にされたんだからな!…男らしくなりたかったのに…もうなにもかもお終いなんだ…」
俯いて固く拳を握りしめる姿に湊は心を痛め、響は瞳を潤ませた。実は遥のちょっとした悪戯だったのだが、思った以上に効をそうした。
「ごめん、遙はこっち側の人間だと信じていた。あっち側だったんだ…」
俯いたままぼそぼそと言い訳をし始める。
「なんだよ?あっちだこっちだって」
更に小さな声で言い訳をする。
「…同性愛者か異性愛者かってことだ。僕も響も同性愛者だ。男が恋愛対象なんだ。だから遥もそうなんだと思った。」
遙の心は揺れた。
「オレ…」
遥が好きな人…
「こっち側かも…」
二人が同時に息を飲む。
「航が好き」
「え?」
「なに?」
二人が同時に声を発した。
「だって!好きって言ってくれたから…嬉しかったんだ。いつも僕は兄ちゃんと響の橋渡しばかりやらされていたから、僕を好きって言ってくれて嬉しかった。」
ガシッ
響が遥の肩を掴んだ。
次回「見守る会、解散」へつづく
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