第二十八話  挑戦状  
 遥は今日も真面目に勉強に精をだしている。
 湊はあれからなんとなく遥に遠慮しているように見える。
「兄ちゃん、ここはどうなるの?」
 以前のように全く分からない状態ではなく、ある程度理解した上での質問をしてくる。湊にもそろそろ家庭教師という立場は不要だと感じている。
「遥。今日で家庭教師、辞めて良いか?正直つらい。」
「うん…ごめんな」
 遥の恋しい人は湊ではないと痛感する。
「遥の好きな人って誰なんだ?」
「ダメだよ。まだ本人に言う資格がないんだから誰にも言わない。」
 幸せそうに頬を染める遥を見て、弟であるという事実を受け入れなければいけない現実を受け止めた。
「片思いの時間が一番幸せだもんな。」
 湊にはそんな時期はないに等しい。好きだと自覚してからは常に罪悪感を抱いていた。毎晩、遥をおかずにして朝は気まずい思いをしていた。
「兄ちゃんはずーっと兄ちゃんだろ?」
 湊の気持ちを察してか、遥は思いやりの言葉を口にした。しかし湊には逆に辛い言葉だ。
「兄ちゃんがさ、女の子と一緒に歩いているのを見たことがあるんだ。俺、ちっとも嫉妬しなかったよ…ごめん。」
「遥にはいつでも俺は兄貴なんだな」
 それは湊からの挑戦状だった。