第三十五話  放心
 二度と会いたくない…


 冷静になれば、響にも分かる。
 どれだけ遥に酷いことをしたのか。
 だけど。
 航だって最初は強姦したじゃないか!どうして自分だけ…などと自己中心的な思いが過ぎる。
 嫌われていたことを失念していたのだ。
 もう、なにも考えられなかった。


「珍しいな、お前が絡んでこないなんて。ついに遥を諦めたか?」
 通学途中、湊に会ったが声は掛けなかった。
「遥、昨日何か言ってた?」
「いや、昨日は会ってない。サークルに顔出したら先輩に捕まって帰りが遅かったからな。」
「そっか…」
「…この間、俺が誰と歩いてても心を乱されることはないと言われた。」
 響は湊の顔を見た。
「自分で解決するみたいだ。兄離れされたよ。それで俺はお払い箱だ。ただの兄貴だったんだよ、遥には。」
「…二度と会いたくないって…言われた。僕が悪いんだ…」
「昨日、何かあったんだな…そっか…」
 二人はそのまま黙って駅に向かい、それぞれの目的地に散っていった。



「遥ちゃん、顔色悪いよ?」
 潤はただ一人、幸せに浸っている。
 あれから、湊の家庭教師は続いていた。そしてその後の行為も、条件がクリアすればご褒美でもらえる。
 実の所、湊は潤に情が沸いたのだ。
 あんなに遥のことが好きだと思っていたのに、拒絶されたら手も出せない。
 潤に好意を示されたら、悪い気はしない。
 湊は、遥争奪レースから脱落していた。
「体調がイマイチなんだ」
「大丈夫?休めば?」
「うん…そうする」
 クルリ
 踵を返すと家路に着いた。