「今度はどこに出掛けるんだ?」
玄関で靴を履いていると背後から湊が声を掛けてきた。
「え…っと…内緒」
航に内緒だから湊にも内緒。遥は意外なところで律儀だ。
「明日から予備校だから遊べるのは今日までなんだ、いってきます」
昨日、祖母の所から戻ったばかりだというのに元気だな…と思いつつ、自分が遥に未練を抱いていないことに、湊は気づいた。
それには、やはり潤の存在がある。
最近は身体の繋がり以外にも心の繋がりが見えてきた。
二人で連れ立って出掛けたのが効をそうしたようだ。
…ひとりえっちで遥をおかずにするのは、もう暫く許せ…心の中で詫びる。実はまだ潤でいかがわしい想像をするのは恥ずかしいのだ。
意外と純な湊であった。
「お待たせ」
「いや。…行こうか。」
遥は響の隣に並ぶと手を繋ぐべきか否かを検討していた。
航と学校から帰宅の道では手を繋ぐ。
でも、実は照れくさいのだ。
遥が手を出したり引っ込めたりと逡巡していたら、響がポケットに両手を突っ込んでしまった。
遥にはショックだった。
「どうしたんだ?」
響はすぐに遥の様子が変だと気づいた。
「ううん、なんでもない。」
しかし、遥の手が宙に浮いているのを確認して、響は一人苦笑した。
響はずっと、幼稚園の時からずっと、遥が大好きだった。ガキ大将のくせに甘えん坊で泣き虫。響が守ってあげないと遥は道を歩くことさえ出来ないと思っていた。その時は 当然手を繋いで歩いた。
恋愛の対象として意識してからは手を繋ぐ機会もなかった。
響はポケットから手を出すと遥の手を取った。
遥は一瞬、嬉しそうに笑ったがすぐに照れて俯いた。
「池袋、行くからな」
俯いたまま、遥が言った。
「池袋じゃ見つかるだろ?渋谷にしないか?」
渋谷!
遥の鼓動が飛び跳ねた。
|