第四十八話  ドキドキ
 映画館で何が上映されていたか、遥は覚えていない。
 響もチラチラと遥ばかり見ていたので所々しか分からなかった。
「どーだった?」
「うん、遥は?」
「うん…まあまあかな」
「そうだな」
と、会話にならない。
「どっかで食事に行こうか。」
 行く、と言う言葉に遥が反応した。
 響は動揺した。
「遥、僕今日はそんなつもりじゃないから」
「うん、分かってる」
 分かってるといいつつも、反応してしまう。
「…したいの?」
「ううん!違う、全然違う!ただ…デートってしたことないから分からなくてさ」
「普通でいいのに」
「響はしたことあるのかよ、デート」
「ないよ。みんな受け売り」
「頭の良い人は応用が利くのか、いいな。」
「遥、一緒の大学行こうな…ところで学部は?」
「なに?それ?」
 響は食事前に地下道経由で本屋に直行した。


「はー、そういうことね。納得。じゃあ自分が将来なりたい職業で行く学部を選ぶんだ…響は、薬学部、兄ちゃんは経済学部…航はどうするのかな?」
 響は一瞬カチンときたがぐっと堪えた。
 遥は確か、好きな人がいると言っていた。しかしそれが錯覚だったと思い始めた、それはみんなに隠れて航とセックスしていたからと、響が強姦したから。
 遥を引き留めるにはセックスが不可欠のような気がしてきた。
「遥は…なんで航が好きなんだ?」
「え?なんで…って…初めてえっちしたからかな?情に絆された?」
「じゃあ、僕は?」
「んー…わかんない。だってずっと嫌いだったし…でも…今は航より上かもしんない」
 響には朗報だがあまり喜べない。
「えっちしなくても男同士で恋愛できるって証明したいんだ。」
 一番肝心なことを言っていたのに、響はちゃんと理解していなかった。