第五十一話  先制攻撃
「あ」
「う…」
「おはよう…」
「…ぉはよぅ…」
 偶然にも響は航と駅で会った。
「ゆうべは、ごめん」
 意外にも先に航が謝意を口にした。
「いや…僕も悪かった」
 トン
「どうしたの?」
 背後から悪意を全く持ち合わせない潤が笑顔で肩を叩いた。
「昨日の朝は出遅れたからさ、今朝は頑張って早起きした。」
「そっかー。でも響は頭良いんだから予備校なんて行かなくったって平気なんでしょ?やっぱり遥ちゃんと航が一緒にいるのが心配?」
 悪意は、ない。
「そう…だよ。僕はこの夏の間に遥との関係を100にするか0にするか、白黒はっきりさせたいんだ。」
 響がやっと、自分の気持ちを二人に伝えた。
「遥ちゃんが好きなんだね、すごく。僕も湊さんが好きだから、分かるよその気持ち。100か、0かって、大事だもんね。」
「何々?数学の話?」
 天然の遥だ。
「遥」
「ん?」
「遥は僕のこと、どう思っている?」
「どうって?」
 遥は、また心臓がドキドキし始めて、頭が混乱した。
「好きか、嫌いか」
「好きだよ」
「だったら、航と僕とどっちを選ぶか、決めて欲しい。もう限界だ。受験に専念したい。」
 響の瞳が、真剣だった。
 その日、遥は予備校の授業が全く頭に入らなかった。
 そして航と響を交互に見てはため息をついていた。