第五十五話  戸惑い
「使って良いとは言った、確かに言った。鍵を渡したからな。百歩譲って女の子を連れ込むなら我慢する…なんで男の子?まあ、可愛いよ、そんじょそこらの女の子より可愛いかもしれない、だけどそれを知って、はいそうですかと受け入れられるほど、俺は寛容じゃない。おばさんに報告はしないけど、鍵は返してくれ」
 響の従兄弟に、現場は押さえられはしなかったものの、乱れたベッドに別れがたい恋人同士のラブシーンを目撃された。
「ごめん、イヤな思いをさせて」
 帰り道、元気がない遥の背中に響は謝った。
「ううん。響こそ平気?従兄弟の人、おばさんには言わないって言ったけど…」
 振り返り、笑顔で応えた。
「遥、僕は両親に遥のこと、話すつもりだ。時間をかけて説得する。だから大学卒業したら家を出て、一緒に暮らさないか?本当はもっと先になってから言うつもりだったけど、こんなことがあったし、決心が揺らぐ前にさ」
 遥の笑顔が消えた。
「それって、ぷろぽーず?」
 クスリと笑う。
「おかしいか?遥が僕を選んでくれたってことはそういうことだと…」
 言い掛けて先ほどの潤の言葉を思い出した。
『湊と同じ時間が共有できた事実だけで幸せだ』
「遥は、違う?ずっと一緒にいたいわけじゃない?」
「わかんない。だってオレ、やっと響が好きなんだってわかったばっかりだもん。デートだって一回しかしてないし、恋人同士のセックスも今日が初めてだからさ、迷うよ。響のことは好きだよ。だけど親に話せるかな…。」
 響はもの凄く動揺した。
「分かった、悪かった。急がせすぎたよな、まだ僕たち高校生だ、そんな先のことなんて考えられないよな。気にしなくて良いから、まだ大丈夫だから。」
 言うと遥を抱き締めた。
「先走ってごめん、遥が好きだって言ってくれただけで、幸せだから。」
「うん。」
 抱き締めても、響の焦燥感は消えなかった。
 そして、響が家に着くと、案の定、母親が待っていた。