第六十三話  もう一度
『違う、本当に違うんだ』
「流されやすいんだろ?分かってる…分かってるから辛い。」
 響としては自分が同様にして遥を手に入れたのだから、航の行動を責められないのだ。
『ごめん、節操なしで。』
 響からは見えないのに、俯いて両手のこぶしに力がこもる。
「節操なしなんて言ってないだろ?たださ、遥を僕一人が独占することは不可能なんだと、思い知らされたところだよ。航と話してみる。遥も一緒の方がいいかな?」
『うん』
「じゃあ、後から連絡するよ」
 携帯電話の通話を切り、改めて航に電話を掛けた。
『…聞いたんだ?』
 いきなり言われて苦笑する。
『余裕だね、笑ってるなんて。』
「余裕なんてない。だから電話した。…遥と付き合わないか?」
『別れてくれんの?』
「いや…遥はさ、誰かの物にはなれないんじゃないかな?」
『なんだよ、二人で所有するのか?…嫉妬するよ?遥のあそこが、響の形に馴染んでいくのを感じた。遥は響色に染まろうとしている。だから邪魔した。』
「日本の法律では男女ペアの夫婦は一夫一妻制だけど男同士のペアに人数制限はない。」
『無くても無理だ、遥の身体を犯しても心は付いてこなかったからな。』
「それは違う。遥は最初から航を気にしている。」
『嘘だろ?』
「嘘じゃない、航を傷つけないようにばかり考えているから」
 航が沈黙した。
「遥が二人を選ぶと言ったのは、そういうことなんだよ、どちらかを選ぶことが出来なかったんだ。」
『けど!遥は響が好きだと、言った…いや、言われてない、かも』
 航の中で自問自答している。
「三人で話し合おう」
『分かった。…どんな答えが出ても大丈夫だから…』
 響には、最後の台詞がやけに引っかかった。