第七十話  目指すもの
ぱたん
 受験対策問題集を閉じる。
 全然頭に入らなかった。
 果たしてこのまま何の目的もないまま、大学受験をしていいのか?
 自分にはもっと適したことがあるのではないのか?
 航は医師になると言った。
 響は薬剤師になると言った。
 遥は、何を目指すのか…。


「頭痛い…」
 久しぶりに布団の中でぐずぐずしている遥を、湊が起こしに来た。
「風邪かな?」
 額に手のひらを当てる。
「気持ちいい…」
「風邪だな。今日は休め。」
「うん…」
 うとうとと寝ていると、母親が着替えを促す。病院に連れて行く気らしい。
 結果、湊の言うとおり風邪だった。
「かあちゃん…看護婦さんって男でもなれるんだね…」
 ぼんやり、見ていた。
「今は看護師って言うのよ、男女差別になるから。」
「そーか」
 看護師…。
 いいかも。
 ふと、閃いた。
 ただそれだけ…じゃなかった。
「かあちゃん…オレでもなれるかな?看護師。」
「なれるんじゃない?大学にも専門の課があったし…そうね、遥に向いてるかもね。」
「うん」
 そうしたら航とも響とも繋がっていられる。
 いつまでも…。
 家にたどり着くと、調べようと思っていた気力は失せて、再びこんこんと寝入った。
 航、潤、響がお見舞いに来たのも気付かずに。