第七十六話  奪還
「響っ!」
 遥が叫んだ。
 足が鎖でベッドの脚に固定されていた。重たい鍵がいくつも重なって付いていた。
「あっあっあっ」
 バックから突き上げられ、遥は喘いだ。
「遥、好きだと言ってくれたのは、間違いだったのか?」
 湊に抱かれながら響に気持ちを確かめられ、遥の瞳からは涙がこぼれた。
「響…オレが…悪いんだ…んっ…」
 遥が何か言おうとすると、湊の動きが激しくなる。
「湊。とりあえず遥から離れてくれないか?」
 響が湊の身体を背後から羽交い締めにした。
「止めろ。自分でむなしくならないか?こんなことして。」
「うるさい!遥が望んだんだ、何の文句がある!大体お前、不法侵入で訴えてやる!」
「不法はどっちだ?監禁だぞ」
 湊が駄々っ子のようにじたばたし始めた。
「今ならやり直せる。潤は湊を信じてる。」
 諭すように、優しく耳元で話した。
「潤…より、やっぱり遥が好きなんだ。」
「遥の気持ちを尊重しようって、ずっと湊は言っていたじゃないか」
「うるさい!遥は抱けば絆されると高を括ってたんだ…バカだからな…バカは自分だった」
 湊はやっと、遥の身体から離れた。


「三日間…か。早く気付いてやれれば良かったんだけどな。」
「ううん。助かったよ。兄貴があんなにオレに固執していたなんて思いもよらなかった。両親は十日まで戻らないんだ。」
「泊まろうか?」
 一瞬、躊躇った。
「出来たら…泊めて欲しい」


「買った」
「え?」
「大学に入ったらこっちで暮らそうかと…遥が良ければ…」
 遥はマンションを見渡し、キョロキョロした。
「つまり。大学生になったら東京で同棲したい…と?」
 マンションは埼玉・ふじみ野から一番近い東京、池袋にあった。2LDKだ。
「悪い…航の部屋はない。」
 しかも室内には何の家具もなかった。
「安かったんだ。両親を説得して買わせた。有り金全部出して、あとは出世払い。」


 深夜まで空いている量販店で布団を一組買ってきた。
 そこで、ただ抱き合って眠った。
 遥は初めて、幸せだと思った。