第七十七話  時は流れて…
「遥、朝だよ」
「ん…」
「おはよう」
 ベッドの中、隣で微笑むのは、響。


 航は無事に医大に合格して医師への道を歩んでいる。
 響は薬学部に合格、今は新人薬剤師として大学病院の薬局に勤務している。
 遥は…ちゃんと看護大学を卒業、正看護師と養護教諭の国家試験をクリアした。
 三人は別々の大学に進学した。
 大学時代から遥と響は同棲した、航がいないのは関西の大学に行ってしまったからだ。
 今は同じ職場。
 そして大学入学から六年、航がインターンで東京に戻ってくる。


「航、戻ってくるんだって?」
 潤は湊のスーツを受け取りながら、世間話を始めた。
 湊は実家にいた。遥と入れ替わりに潤を家に入れた。
 両親は驚いたが、分かっていたらしい、遥じゃないんだと胸をなで下ろしていた。
 …響が来て、遥を嫁に欲しいと言ったときには喜んで差し出した、変な夫婦だ。
「うん…もめるよね」
「どうかな?」
 湊は潤にキスしようと顔を近づけたら拒否られた。
「あのさ…別れたいんだ」
「え?」
「会社の女の子に好きだって言われた。そろそろ潮時かなって。」
「待て!潤!お前は僕が嫁にしたんだ」
「子供が欲しいんだって…両親が」
「嫌いになったならそう言えばいいだろ?」
「嫌いじゃない…でもなんだか違う気がするんだ。湊のこと、ずっと憧れてた。好きだった。だけどこのまま一緒にいても何も生み出さないじゃないか」
 湊は気付いていない。潤が離れていく本当の理由を…。


「佐藤さん、男にもセクハラってあるんですよ?」
「遥ちゃんは可愛いからな」
 ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ…と、入れ歯をカクカク言わせて笑いながら遥の尻を撫でる佐藤は、遥がお気に入りだ。今朝ももう何度目かわからないナースコール。
「男の看護師はいいなー、抱き締めてくれるからな。女はすぐにギャーギャー騒ぐ」
「だから、男だってイヤなら騒ぎますから」
「聞いたぞ。インターンの航先生とちちくりあってたらしいな」
 ちちくりあう…古い…そう思いながらも笑顔を作る。
「中学からの同級生なんです」
「同級生だと男同士で交尾するのか?」
 …見られたのかな?遥は内心、動揺していた。


 航は遥の勤める病院にインターンとしてやってきた。やってきた初日に夜勤だったのだ。
「急患来たらどうすんだよ?」
「適当に…逢いたかった」
 すぐに肌をまさぐり、結合の準備に掛かった。
「完全に響に慣らされてるよな…んっ…」
 一気に貫かれ、声も上げられず、互いに黙って揺さぶられたのはそそられた。
「今度は響を外してやろう」
 航が不気味に囁いた。