第七十八話  やがて訪れるもの
 遥と響の部屋に、航がやってきた。
「いやだ」
 響は首を縦に振らない。
「考えて見ろよ。遥は航を追ったか?違うだろ?それが証拠だ。」
「そうなのか?再会した日はあんなに燃えたのに?」
「うっ…」
 遥は返事が出来ない。
「兎に角、引っ越しはしない」
「別にいいよ。遥が家にくればいいんだから。そうだ、前みたいに偶数奇数にすればいい」
「悪い。それはムリ。オレも仕事有るし…つーか、結論を出せばいいんだろ?どっちを取るか。なんか前にもあったな、こんなこと。」
 響は腕組みをしてじっと待った。
 あの時は真面目に自信がなかった。でも今は選ばれる自信があった。
「航。とりあえず航んち、行くよ。但し一ヶ月だけだからな」
 響は呆然とした。


「よっ!」
 憮然とした表情の響に、輝くほどの笑顔で声を掛けた航。
「なんだよ?」
「遥の性格、本当に把握してないな。あいつは情に弱いんだって」
「分かってる」
 だから航を思って一ヶ月行くのだろう。湊の時みたいにならなければいいが。
「潤が湊さんと別れたよ」
「え?」
「余裕、無くしてると仕事しくじるぞ」
 ふっと笑って消えた。


「なあ、響とはどれくらいの頻度でしてたの?」
「なにを?」
「わざとらしいな。セックスに決まってるだろ?どんな体位でした?良かった?」
「航、悪趣味になったな。響もオレも忙しくてそんな暇ないよ。」
「セックスレスってことはないよな?」
 遥は真っ赤に頬を染めて頷いた。
「なんだよ。やけに塩らしいな。初な女の子みたいだ」
「航は酔っぱらいの親父みたいだ」
 航はむっとした顔で遥を引き寄せた。
「僕はこれしか愛情表現の仕方がわからないんだ」
 ゆっくりと顔を寄せ、唇を重ねた。
 徐々に下へと下げ、遥の反応を確認していた。


「響」
 薬局の戸口に遥がいた。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。顔を見に来ただけなんだ」
 響が微笑んだだけで、遥の胸は熱くなる。
「遥、早く帰って来いよ」
「うん」
 返事は肯定だが、実際は一ヶ月後だろう。
「多分…航とは終わるんじゃないかって思うんだ。折角あの時、響が考えてくれたんだけど…悪いな」
「悪くなんかないさ、俺にとっては良いことだしな」
「まあ、な」
 遥がはにかむから、響まで照れくさかった。