第八十話  寄り道
「どういう了見なんだ?」
 航のマンションに湊が乗り込んできた。
「女と一緒になるんじゃなかったのかよ?」
 湊が怒鳴りつけているのは潤だ。
「いいだろ?僕が誰と付き合っても。どうせ遥ちゃんの代わりだし」
「誰がいつ、そう言った?」
「言わなくたってわかるもん」
 確かに多田兄弟にフられた二人が一緒にいても変ではない。
「湊さん、帰ってください。潤が落ち着くまで待ってもらえませんか?」
 航の一言で湊にはピンときた。潤の意志で別れたのではないことを。
「分かった…手、出すなよ!」
 航はそれに答えず苦笑して頭を掻いた。
「潤。待ってるから」


「潤、湊さんはお前のこと大事に思ってる。それはわかるよな?けどお義母さんがダメなんだな?」
 潤は俯いていて反応がない。
「悪いけどさ、僕だって15年間の想いを終わらせたばかりで余裕ないんだけど…」
「ごめん!」
 潤が涙をいっぱい溜めた目を航に向けた。
「ダメなんじゃない、ムリなんだ。もう、続けることは不可能なんだよ。湊さんと僕は一緒になれない。」
「湊さんに家を出たいって言った?」
「言ったよ。だけど湊さんには夢があってそのための貯金が忙しいんだ。僕が借りるからといっても、無駄遣いはしたくないって…最初に同居したのがいけなかったんだ…」
 航は首を傾げながら、聞いた。
「湊さんの夢、何なの?」
 潤は答えていいのか逡巡した。
「じゃあ、知ってるのか、知らないのか?」
「具体的にはわからない。ただ起業したいとだけ…」
「それは、誰のため?」
 潤は首を左右に振った。
「潤。ここに居たいなら助産師の資格を取って欲しい。わかるな?意味が。」
「うん…。湊さんは僕に経理の仕事が向いていると、言ったんだ。」
「だろ?よく、話し合った方が良い。」
 潤は急いでポケットから携帯電話を取り出した。