第八十一話  和解
「言ってくれなきゃわからない」
 潤は初めて湊に反論した。恋愛は惚れた方が負けだって言うけど、そうだと思う。
 潤は初めから湊に負けっぱなしだ。
 だからこそ、曲げられない事実もある。


「かあさんに、言われたのか?」
「お義母さんを責めないで。分かってる…だから家では会えないんだ。」
 母親なりに嫁に夢を描いていたのだろう。例え反発するような娘でも、女の子となら上手くやっていけると、自負している感じだ。しかし相手が男で、深夜男の声で、甘い声が漏れ聞こえたら耳を塞ぎたくなる気持ちもわかる。
「でも、ずっと一緒にいるつもりだと言ったことを証明してやろうと目論んでいた。潤の苦悩なんて考えていなかった」
「家には戻れない…湊の夢、急いで叶えないといけないの?」
「潤がいなきゃ、叶わない夢だよ。だから潤が家に居られないなら、二人で暮らす所が先だ。」
「ねぇ、僕がローン組むから、建て売りでいいから一戸建てを買おうよ」
「建てるなら注文住宅だ…事務所と倉庫も兼ねる。自宅に会社を置きたい…そうすれば片時も離れずに済む。潤を外で働かせるのがイヤなんだ。」
 ブツ切れの話し方だが、なんとなく輪郭が見えてきた。
「航と、ヤったのか?」
「言わない」
「やっぱりヤったんだ…」
「内緒だってば」
「気持ち良かったか?」
「しつこいってば〜」
「暫くはアパート暮らしでいいか?」
「うん」
「ごめんな、不安にさせて。」
「うん。」
「ヤったんだ…」
「また?」
 潤が膨れ面をしたから湊は笑った。
 潤はあの夜、航と抱き合ったことは一生言わないと決めたのだった。