遥は、航を引き留めなかった。
気付いていた。遥は一方的に愛されることを喜ばない。互いの気持ちを尊重し、距離を測っていく。
「あの二人はずっと繋がっているんだろうな…道が…」
遥の前に広がる道は響の道と繋がり、延々と続く。
航の目の前の道は、続いているのだろうか?
遥が看護師になるからと迷っていた医師の道を進んだ。
大人になりたくなかった。
遥が気付かないでいてくれたら、良かった。
「響、オレさ、間違ったとは思わない。」
「うん。だけど気になるんだろ?」
「ううん。今航を引き留めたら、オレはまた響を選んで航を傷つける。だから我慢するんだ。」
響の腕が遥の髪を撫でる。
「どうしてまた僕なんだ?」
「思い出したんだ」
「何を?」
「幼稚園のとき…」
「思い出したのか?」
「うん」
「もう一度、忘れてくれ」
「やだ…愛してる」
遥は俯いて照れる響に無理矢理口付けた。
「ひーちゃん、ひーちゃん。」
「なんだよ?」
「あのさ、目つぶって?」
今、幼稚園で流行っているのは、友達の襟首におもちゃのトカゲを入れること。結構難しい。
「薄目開けたらダメだよ」
響は絶対に遥がトカゲを入れるだろうと思っていたのだ。
「目、開けていいよぉ」
もの凄く近くに、遥の気配を感じていた。
目を開くと、わずか二センチほどの距離に遥の顔があった。
響は驚いたものの、逆に遥にいたずらを仕掛けた。
「わーっ!ひーちゃん、なにすんだよ!」
「はるかが悪い」
響は、遥の唇に自分の唇を重ねたのだ。
「僕、ひーちゃんと結婚するんだって」
「え?」
「女の子がね、どんな反応するかで占うって…びっくりしたら普通、怒ったら嫌い、喜んだら好き…」
「キスしたら?」
「らぶらぶ…」
響はもう一度、遥にキスした。
「はるかは僕とけっこんするのイヤ?」
「うーん、わかんない」
「じゃあ、ずっとそばにいるから、考えて。僕ははるかといっぱいキスしたい。」
「ん…」
遥は響の脚を跨いで、キスに興じていた。
航が身を引いてくれたのを、無駄にしないように…
「え?二年後?」
「そうだよ、そんな簡単に研修先は変えられないよ」
航に騙された… |