遥は心配だった。
「航」
廊下でばったり出会った。
「よ!元気か?」
「オレはな…」
「悪かったよ…お前との噂を消そうとしたら飛び火した」
嘘を言え…と内心舌打ちしたが口には出さなかった。
航が早番の日は、看護師を連れて家に押し掛けてくるのだ。そのたびに遥は緊急避難場所の湊と潤の部屋に逃げる。
「一応、協力してるんだぜ」
確かに、響ねらいの看護師は大抵諦めてくれてる。しかし…。
「予告しろよ」
「最中に行ったか?」
ニヤリ
不敵な笑い。
「いや、それはない」
最近、響と遥はセックスしていない。
「欲求不満なら、解消してやるよ?」
「大丈夫だから」
俯いて、航から見たら迷惑そうに拒否する。それが航自身にも気付かないモヤモヤしたものとなり、胸の奥に少しずつ溜まっていた。
「ごめん、仕事中だから」
看護師仲間がいうように、遥は一生懸命だ。そんな姿に惚れる女もいるだろう…航は内心思っていた。
それも、モヤモヤのひとつだ。
嫉妬以前の、表現できない、モヤモヤ…。
「やあ!」
今夜もまた、酔っ払い状態で航がやってきた。
「遥、悪いけど、頼んだ。」
「うん」
遥は外出の支度をして待っていた。
「悪いけど響が航に二人で話があるそうなんだ」
連れてこられた看護師は遥が駅まで送ることにしたのだ。
「なーに、勝手なことしてんだよー」
「酔った振りはいいから。何が目的だ?」
「いやがらせ…それしかないだろ?」
わざとらしく、響がため息をついた。
「僕に、構って欲しいのか?」
「ばーか、違うよー」
「遥に逢いたいなら、そう言えよ」
「…また、フられるじゃないか…やだよ、何度も何度も…お前にだってしつこい奴だなーって思われたくないしなー」
「思ってない。でも、思い出にするのは、案外簡単なんだ」
「…気付いてたのか?」
「航がやることなんか、もう全てお見通しだ。だけど遥は航のこと、生涯嫌いにはなれない。」
「なってくれよ!お前が悪口言ってくれればいいじゃないか?な?忘れたいんだ…一日も早く…」
響の掌が航の髪を撫でた。
「素直に、そう言えばいいのに…簡単なのは、今ここで僕を犯したらいい…そうすれば遥は航を嫌う…でもイヤだろ?なら嫌われずに思い出にしてやろう」 |