第八十八話  チクチク
 心配そうに航の顔をのぞき込む遥だった。
 航はベッドに寝ていた。二人が使うベッドだ。
「そんなに飲んだのか?ずっと頭痛いって言ってた。響から預かった薬飲む?その前にご飯だ。」
 パタパタと動く遥。
 その後ろ姿を見つめて、航の胸が痛んだ。
「遥…響と寝た」
「だーかーらー、最近は忙しくてぇ」
「違うよ、僕が響と寝た」
「え?響と?航が?」
「響に抱かれた…女なんだってさ、響が言うには。何だろうな」
 これは医学ではない、心理学の分野だ。
「ここで、した?」
「わかんないんだ、ぼんやりしてて…けど…異物感がある」
「じゃあ、そうなんだ…そっか…なんだぁ…うん…そうだよね…」
「遥、なに…」
 航は先を言わなかった。遥は勘違いをしている。
 二人の仲を裂くなら今だ。


「どうだった?」
 薬局の前で落ち合った。
「かなり動揺してた…なんか良いのかな…航のこと、騙しても。」
「かなり幻覚症状が出てたな。本当に僕が航を抱くと思ってるのか?かなりイかれてる…」
「でも本当に航が響に恋したら可哀想だ」
 響が、遥をじっと見る。
「嫉妬、してる?」
「少し…」
「そうか」
 なぜか嬉しそうだ。
「僕は遥だけだから」
 こくり
と、頷いた。


 胸が痛い。