第八十九話  ほんとの、気持ち
 航は、一人夜の街をさまよっていた。
 どうしていままで遥にこんなにまで執着していたのか。
 遥に気持ちを告げる前に、響を牽制した理由。
 考えれば考えるほど、わけがわからなくなった。
「お兄さん、一人ぃ〜?」
 甘ったるい声で女が航に声を掛けてきた。
「なあ、突っ込まれると気持ちいいのか?」
「なあに?」
「セックス!気持ちいいのかって聞いてんの!」
「気持ちいいに決まってるじゃない!ばーか」
「じゃあ、ケツは?気持ちいいのか?」
「ちょっと、なんなのよあんた!気持ち悪いな」
 女は手をふりほどいて行ってしまった。
 答えは見つからない。
「航?」
 名を呼ばれ振り返ると、響がいた。
「病院休んでなにしてるんだ?」
「お前のせいだ!」
「なにが?」
「なんであんなことしたんだ?」
「…抱いたこと?」
「そうだよ!」
「忘れられただろ?遥のこと。頭の中は僕のことで一杯だろ?悪いな。もう手段を選んでいられないんだ。」
「責任…責任取れよ!」
「…昔、僕にしたことを考えたらそんなこと言えないよな?それよりどんな責任をとって欲しいんだ?」
 航は考えた。
 どうして響に振り回されるのか…
「響…もう一回だけ、抱いてくれ」


 今度ははっきりと自覚して抱き合った。
 響の腕に抱かれたのだ。
 そして、気付いた。
 なぜ遥との仲を裂こうとしたのか。
 完全に嫉妬だ。
 航は間違っていたのだ。
 航が欲しかったのは響の腕だった。
「これで、遥からも僕からも解き放たれただろ?」
 響は身支度を整えながら言った。
「帰るよ」
「待て」
「なんだよ?」
「いや、なんでもない」
 響は少しだけ後悔していた。意外にも航が純情だったことに対して。