第九十二話  引越し
 家が完成した。響と遥は休みの日になるとボツボツと荷物を運び出した。
 しかし、航は何もしていなかった。


「ただいま…っておいっ、何だよ?」
 部屋の中に響と遥の荷物が無い。
 ベッドやテレビなどは置いてあるけど、生活用品がないのだ。


 しばらく、こっちの家も使うけど、いずれ完全に引っ越す予定だ。
 航はどうするか、じっくり考えたらいい。


 響から航へのメモ。
 じっくりも何も、また騙されたのだ。


「辞める?」
「ああ。お前が笑っていっていた街の薬剤師を目指すことにしたんだよ。資格も許可も取った。店も出来た。それだけだ。遥はしばらくここにいるけどな。」
 胸が、チクリと痛んだ。
「僕に航はいらない。悪いな。あとは遥とじっくり話し合ってくれ。」
 じっくりが好きだな…なんて心の中で上げ足を取っていた航だった。


「街の薬局に看護師はいらないでしょ?だから僕はしばらくここに通うよ。」
 遥がニコニコと答える。
「マンションにも住むよ?響が帰ってこなくなるから、二人で出来るね?」
 悪びれもせず、遥が言う。
「ちゃんと、答えを出そうよ、今度こそ。」
 答え?
 どうして?
 だって、三人でいいって、決めたのに…。
「三人が皆好きなら、問題は無いんだけど…響は昔のことを根に持っているんだよね…だからずっと一緒にはいられないって…」
 そうか、そういう事か…。
 自業自得だ…。