第九十四話  突然の…
 マンションの鍵を開け、ドアを開く。
 中に、響の荷物はない。
『僕は先に向こうへ行く、遥は暫く一人暮らしを経験したらいい。』
『航は?』
『隣の部屋を提供したよ』
 初めての一人暮らしに、遥は戸惑った。
 慌てて携帯電話を手にすると、響に電話を掛けた。
「響…」
『どうしたんだ?』
「寂しい」
『僕も、会いたいよ』
「一人でベッドに入るのは何時以来だろう…」
『…航…を呼ばないのか?』
「響は俺を疑ってるんだろ?三人暮らししたら簡単に航に脚を開いたから。…響のせいなんだからな。響が航とセックスしたから、嫉妬したんだ!」
『ちょっと待て、僕は航とは…』
「うそつき!俺は響のことなら何でも知ってる…愛してるから…」
 突然の告白に、響は動揺した。
「響は、僕の気持ちを信じていなかったんだよね?あんなに話し合って決めたことなのに、僕のこと試したんだね…」
『違う。遥違うんだ。航とセックスしたのは成り行きだったんだ、信じてくれ、本当だ。』
 そばにいたなら、抱き寄せて、キスをして許しを乞うのに。
「…次は、ないからな。」
 消え入るような声が受話口から流れてきた。
「…今からそっちに向かう。待っててくれ。」
 電車で十分ほどの距離がもどかしかった。