| マンションの鍵を開け、ドアを開く。 中に、響の荷物はない。
 『僕は先に向こうへ行く、遥は暫く一人暮らしを経験したらいい。』
 『航は?』
 『隣の部屋を提供したよ』
 初めての一人暮らしに、遥は戸惑った。
 慌てて携帯電話を手にすると、響に電話を掛けた。
 「響…」
 『どうしたんだ?』
 「寂しい」
 『僕も、会いたいよ』
 「一人でベッドに入るのは何時以来だろう…」
 『…航…を呼ばないのか?』
 「響は俺を疑ってるんだろ?三人暮らししたら簡単に航に脚を開いたから。…響のせいなんだからな。響が航とセックスしたから、嫉妬したんだ!」
 『ちょっと待て、僕は航とは…』
 「うそつき!俺は響のことなら何でも知ってる…愛してるから…」
 突然の告白に、響は動揺した。
 「響は、僕の気持ちを信じていなかったんだよね?あんなに話し合って決めたことなのに、僕のこと試したんだね…」
 『違う。遥違うんだ。航とセックスしたのは成り行きだったんだ、信じてくれ、本当だ。』
 そばにいたなら、抱き寄せて、キスをして許しを乞うのに。
 「…次は、ないからな。」
 消え入るような声が受話口から流れてきた。
 「…今からそっちに向かう。待っててくれ。」
 電車で十分ほどの距離がもどかしかった。
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