零の腕が僕の身体を抱きしめる。
少しずつ力が強くなり、放したくないとばかりに力一杯…
「痛いーっ」
思い切り抗議する。
「なら今後一切文句は言わないと約束する?」
「しないー、いたーいっ!」
そんな約束、絶対に出来ない!
「どうして聖に中学受験させるのを嫌がるかな?陸も行ってた学校じゃないか。」
僕の母校はパパの、そして涼さんとママの母校。だけど零は公立高校に行った。
理由は聖がいたから。
これ以上、金銭的に両親に負担を掛けさせたくないと思ったんだそうだ。
しかし。零の弟妹はお兄ちゃん大好きな超ブラコンで二人とも同じ高校に進学した。
僕はといえばそんなわけで中学も高校も接点がないから休みが多い私立を選んだ。
「僕らの意見じゃなくて聖の気持ちだろ?僕は初めからそのつもりで勉強させていたんだけどな。」
そういわれると返答に困る。
「聖に、聞いてみようか…」
「ダメ!反対!」
「んー、そうだね。なかなか難しいね。」
零、何呑気なことを!
聖が全寮制の高校に行きたいと言い出した。
だから零の言う中学校には行けないと言うのだ。
「その学校、両親が揃って面接があるんだ。あきらちゃんと僕が行くわけにはいかない。かといって陸を連れて行くことは出来ない。そうなると涼ちゃんとあきらちゃんになる。」
聖はがっくりと肩を落とした。
「ムリだね…」
ママがおとなしく聖を全寮制になんか行かせるわけがないもんね。
「陸の後輩にならないか?」
「零!」
「京輔が来年度からあっちに行くって連絡があった。引き抜かれたんだ。」
橘さんが?
「ま、高校だからまだ先の話だけどさ、それならまた運動会にも行ける。」
運動会!文化祭もある。そうか、零は僕が行きやすい所を選んでくれたんだ…って、中退してるから行きにくいけど。
「少し考えてみるよ。」
聖はなぜ全寮制の学校に行きたかったのだろうか?と考えていたら聖の方から理由を言い出した。
「辰美さんは男子校で全寮制だったんだって。だから夕食後に寮で部活の続きができるんだって。」
「何の部活がやりたいんだ?」
その言葉に零はピンときたらしい。しかし聖はもじもじとして口を割らない。
「ACTIVE研究会だろ?」
すると聖の耳が見る間に真っ赤になった。
「今更何を研究するの?」
零は笑いもせずに「辰美の趣味、忘れた?」と言われはっと思い当たった。辰美くんは僕の追っかけだったんだ。
「聖、どうせなら僕と一緒に研究しない?なんなら辰美くんも交えて。」
僕の言葉にふたりは唖然としている。
「陸のことを陸が研究するの?」
「うん。僕は自分をよく理解していない気がする。なんで、女の子に興味がないのか、とか。」
「それは研究会ではしないよ。」
呆れた顔で答える。
「だから聖に一緒に研究して欲しいんだ。僕はありきたりな家族愛がわからない。父親に異常な愛され方をしたからかもしれない。零、聖もそうだし夾ちゃんに実紅ちゃんにも恋愛対象にされる理由を知りたい。そして僕が零を愛した理由も知りたい。」
聖が大きくため息をついた。
「陸はその理由、全て知っているじゃないか。陸がみんなを愛してくれるからみんなも陸を愛してるんだ。陸が零くんを愛したのは零くんが陸を愛したからだよ。」
僕は、息を飲んだ。聖はちゃんと、本当に僕を見てくれている。
だったらきちんと僕も聖の気持ちに応えなくてはいけない。
大きく深呼吸すると聖の目を見て、笑わずに言った。
「聖。勝ち負けじゃないのは十分わかっているけど、僕は零を愛した。夾ちゃんとのことがあって気付いたことはね、夾ちゃんは零じゃないってこと。何があっても僕は零を求めているんだ。伴侶として零を愛してるんだ。夾ちゃんは大好きだけど伴侶としての愛じゃない。それを分からせてくれたんだ。だから聖、」
聖がにっこり笑う。
「いいんだ、陸。僕はまだ陸の子供でいたい。」
全部言い終わる前にあっさり引いた聖に、僕はホッとした気持ちで納得したけど、このあと零と聖が僕に内緒でこの件に関してはかなり話し合ったらしい。
寝室の入り口でいきなり零に背後から抱きすくめられた。
「あっ…」
思わず声が出てしまった。
「していい?」
耳元に囁かれる。
「…」
声を出さずに頭を上下させることで自分の意思を伝えた。
零の手が素肌をまさぐる。
「は…ぁ」
乳首を撫でられ、抓られ、揉まれる。
「ふ…ぅん…」
今日はしつこく乳首を攻め続ける。
「いや…んんっ」
こそばゆいような、痛いような複雑な感覚なのだが声が出てしまう。
「陸が僕じゃなきゃイケない身体に調教することにした。陸は思った以上に淫乱みたいだからな。」
淫乱…否定したいけど事実だ。強姦されたあの感覚を身体が覚えているのかもしれない。零以外の雄を求める身体なのかもしれない。
「して…零でいっぱいにして。」
心は零でいっぱいなのに身体が満たされていないのかもしれない。
零が僕を毎日欲しがるのは、そんな性癖に気付いていたのかもしれない。
イヤな僕の性分を変えて欲しい。
何もかも、全て零で満たして欲しい。
場所をベッドに移動して執拗に愛撫される。
「あんっ…んっ…んんっ」
まだ、胸しか触れられていないのに、僕は既に形を変えていた。先端からは透明な蜜が絶え間なく溢れる。
「イヤぁっ…零っ、ごめんなさいっ、僕、乳首だけでイキそう、イヤっ、イクっ…イクぅ」
物凄い勢いで弾けた。白濁液が自分の胸まで濡らし、零の掌まで届いた。
「イヤぁ」
僕は肩で息をしながら涙をこぼしていた。屈辱的な快楽。
零は身体を起こすとベッドの上に座った。
「悪い子はお仕置きしないといけないな。自分で解してご覧。」
そういうと僕の脚を大きく開いて、両手をアナルに導いた。
あ…
あの日と同じ、聖の目の前でさせられたように、また自慰を強要される。
「イヤ」
小さく抵抗した。
「陸は僕に愛されたくないの?」
フルフルと否定のために首を左右に振る。
「じゃあ、見せて?」
コクンと頷く。
胸にこびり付く粘着質な液体を指で掬いそのままアナルに導く。
一本目の指を差し込む。輪を描くようにゆっくり中で動かす。
零のをやったことはあるけど自分のは勝手が違う。
「くふっん」
意味不明な言葉が口をつく。
二本三本と指を増やす。
「左手の指も使って。」
なんで零は僕を虐めるの?目で訴える。
「陸の身体に覚え込ませる。陸は誰のものかってことをね。…僕は身体も心もみんな陸のものだからね。」
確かに零は聖より僕を優先してくれる。でも零には切ることの出来ない繋がりがあるじゃないか。僕は聖と、何も繋がっていない。
ん?待てよ?
零と僕も、何の繋がりもない。
血の繋がりはあるけど家族じゃない。
今こうしていられるのは恋人として互いに求めたから。
「手が止まってる。」
「うん」
ガバッ
僕は零に抱きついた。
「ごめんなさい。僕、忘れていた。」
そうなんだ。
零と僕は兄弟だけど家族じゃない。夫婦だけど男女じゃないから戸籍は変わらない。なんとも不安定な関係なんだ。
当たり前のように一緒にいられたから、僕は零に甘えていた。
零に抱かれるのが当たり前みたいに思っていた。
違うのに。
いつでも簡単に断ち切れてしまう、綱渡りな関係なのに。
しっかりと糸と糸の先端を握りしめていないとすぐに無くしてしまうような危険な関係なのに。
「ごめんね」
泣きながら零に許しを乞う。
「陸、」
零が囁く。
「そんなに可愛く泣かないでよ。止まらなくなる。」
言うと零は力強く僕を貫いた。
僕の一番は零じゃなきゃいけない。それはわかった。
じゃあ聖はどうしたらいいの?
「適当にあしらったらいいよ。」
足腰の立たない僕はベッドに寝ころんだまま、零の作ってくれた朝食をペロリと平らげた。
「適当って?」
「もう色々手を掛ける歳じゃない。自分で考えて自分で探すから。」
自分で?
そうか、僕だってパパから離れたいと思ったときがあった。
聖は自分で考えて学校を決めた。間違っていたら導いてあげればいい。
「辰美くんの母校に行きたい理由は他にあるの?」
零がいきなり渋い表情になる。
「ドラマの影響だよ。イケメンばかり出てくる全寮制の学校。中にはゲイが出てきて…自分を理解してくれる人がいるかもしれないって…聖は自分がゲイだと思っている。陸以外に好きになった人がいないから仕方ないかもな。」
聖が、ゲイ?
「だってこの間は女の子に…」
零が複雑な表情で俯く。
「多分、聖は陸を好きでいたいんだと、それを肯定してくれる誰かを捜しているんじゃないかと思うんだ。親離れの時だよ、うん。」
最後の方は濁された。
聖にとって、我が家は特殊な環境なのかもしれない。
少し、離れてみるのもいいのかもしれない。
聖、僕は君のために曲を書くよ。遅れている作品をやっと世に送り出せそうだ。
でも。
零でも、僕でも、どちらかが女の子だったら、君を悩ませることはなかったんだろうね。ごめんね。
と、僕が散々悩んだのに、聖は中学受験はムリだと夏期講習を受けた際、塾の先生に太鼓判(使い方間違ってるかな?)を押された。
原因は夏休みの遊びすぎ。
全然全くちっとも勉強をしていなかったらしい。最悪。
お陰で僕の後輩にも辰美くんの後輩にもなれなくなりました。
しかし、懲りもせず零は受験をさせたいらしい。
世の中、そんなに甘くないからね。
えっと…確か、うちの学校も親の面接あったよな?ママの嬉々とした顔が目に浮かぶ…。 |