あと1週間と4日…はい11日です。
…あと11日で1周年、なんだけど…覚えているかな零。覚えていない方がいいな。
先にベットに潜り込んでいた僕の横にするりと入り込んできたのは…零、しかいないんだけどね。
分かっているのに確認してしまう、それは…。
「ごめん、寝てた?」
「ううん、何となく寝つけなくって。」
零の腕が僕の肩を抱きに来る、僕は当然のようにその胸に頭を預けている――疲れるだろうな――なんて考えながら。
「あのね、零。」
「ん?」
「お願いがあるんだけど…」
「なに?」
「しばらく…その…10日間なんだけど…我慢してくれる?」
「我慢…って、セックス?」
僕は頷いた。
「叶えたい事があるんだけど…それには一番好きなものを我慢するのが良いんだって。1番は零に会わない事だけど、これは絶対無理だから2番目を…って思ったんだけど、だめ?」
零が僕の目をじっと見詰めて
「それは…僕も関係があることなんだね?」
って聞いてきたから素直に頷いた。
「じゃあ、我慢する。あ、それだったら僕は聖と寝ようか?」
僕は慌てて零にしがみ付いた。
「いやっ、零がいないと眠れないもんっ。」
それは本当の事だから。僕は零と一緒じゃないと安心して眠れなくなっちゃった。だから今は地方に行くときも一緒の部屋にしてもらっている。ツインだけどね。
「陸の大事なものって何?」
「零」
零以外大事なものなんて…
「あと聖。」
ふぅっ、危ない危ない。
「1番が零の顔を見る事、2番が零とのセックス、3番目が零とキスすること、4番目が零に抱きしめてもらう事、5番目が3人で遊びに行く事、6番目が零におはようって言ってもらう事、7番目が零の作ってくれた料理を食べる事、8番目が聖を抱きしめている時…」
延々と零に関する事を指を折りながら並べ立てている僕を苦笑しながら見ている。
「陸…可愛い。」
零の手が僕の頬に触れて、唇が降ってきた。もう、今言ったばっかりなのに…僕の計画、最初から協力してくれない気なのかなァ…。
「セックスとキスは別だろ?」
あぁんっ、零だめだって、そんなとこにキスしちゃっ、もう、僕が我慢出来ないっ。
「イキたい?」
僕は夢中で頷く、だって零が意地悪だから…。
「これが最後、そうしたら我慢するからさ…だって一緒に寝てて出来ないなんて…死にそう…」
零の指が僕のアヌスを探っている時はいつもそう、嬉しい言葉を沢山聞かせてくれる。
「んっ…あぁっ…れいっ…」
「陸…愛してる…陸…」
首を左右に振る、それは嫌なんじゃない、いいから、すごく、いいから。
いつもはバックからていうのが多いんだ僕の負担を考えてくれて…。でも今夜は脚を肩に抱え上げられた、そしてグイッと胸の方に押し付けられる。僕は固く目を閉じる、零の息が胸に掛かる…
「嘘吐き、嘘吐き嘘吐きっ」
零の素肌の胸の中で僕は自棄のような恨み言を言う、勿論本気なんかじゃない。
「ふーん、そう言うのかお前は。」
ぎゅっと腕に力が入る。
「10日間我慢するんだから、1回くらい良いだろう…ったく、人の気も知らないで…」
「だってさっきはいいって言ったじゃない。」
「駄々こねるんだったら我慢なんかしてやらないんだから、毎晩犯してやる。」
…いつもだろ、それは。
ベットから這い出てバスルームへ向かう。
折角の零からの贈り物を僕は身体から出さなきゃ…やだな。
本当はこのままにしておきたいのに、だめだって言うんだよね、零が。
「陸、手伝ってあげる。」
ふわりと暖かい腕が僕を抱きしめた。
「いい…恥ずかしいから…」
「何言ってんだよ、今更…また、拗ねてんのか?だから言っただろ…」
「分かってる。」
気持ちの問題なんだ。
「そんなに嫌なら、うん、本当はいけないんだよな、ちゃんとゴム使わなきゃ。よし、10日たったらちゃんとコンドームしてやろう、それなら陸もそんな顔しなくて…」
「違うよ、零。僕、溶けちゃいたいんだ、零の中に。どろどろに溶けて零の細胞の一部分になれたらっていっつも考えていて、でもそれは出来ないから。だってそうしたらもう零に会えなくなっちゃうから。だったら零の何かを僕の中に感じていたくて…ごめん…わけわかんないね、言っている事。」
腕を振り解いてドアノブに手を掛けた。
「僕も同じような事考えてるよ、いつも。だから陸の心が欲しい、僕にもっと見せて。」
後ろ手にドアを閉めて呟いた。
「心なんてもうとっくの昔にあげちゃってて、ここになんか無いよ…」
バスルームでシャワーを使っていたら零が来て無理矢理洗われた…馬鹿…。
そして子供の頃のようにギリシャ神話を寝物語に聞かせてくれて、僕は安心して眠ったんだった。
零がいてくれる。もう心配しなくても零が傍で僕を守ってくれる。不安なんて無いんだって。
1日目の夜はキスを一つくれて抱き合って眠った、2日目の夜はキスはしないで抱き合って眠った。3日目の夜は零に背を向けられてしまった。4日目は声を掛けるなと怒られた。5日目は先に寝られてしまった、6日目からは聖がいて3人で眠った。ごめん、零。10日目の夜、聖ははいなかったけど、やっぱり零は頭から布団を被って背を向けたままじっとしていた。
そして11日目の朝。
誰かが…呼んでる…誰?…零、なの?…なに?
目を開けた、と同時だった。
「もう、限界っ」
両腕でしっかりと頭を抱きこまれていた。
「零…」
「ゆうべ…結局眠れなかった。僕はおかしいのかもしれない、陸が欲しくって欲しくって…気が狂いそう。もう、いいだろう、10日間ちゃんと我慢したんだから、これ以上苛めないで…」
「…ごめん。夜まで、待って…。」
両目を真っ赤にして涙を一杯浮かべて恨めしそうに見つめられた。
「なにが欲しいんだよ、金で買えないものなのか?僕だけじゃだめなのか?僕じゃ叶えてやれないのか?」
必死で首を左右に振る。
「零に…零だから叶えたい、だからあと少しだけ待っていて。」
困った。零の頭の中は今ぐるぐるしているみたいだ、そのことばっかりで。もともと零はセックスが好きなんだ。だから一番いいと思ってやったことなのに。夏は我慢できたのに…何でだよぉ。
「喧嘩?」
聖に聞かれて苦笑する。喧嘩したつもりは露ほども無いけど。
「…で、何処に行くの?」
「えっ?あ、新宿。大丈夫ちゃんと1回家に帰ってくるから。」
横目で零の様子を伺いながら聖のお弁当をバックに入れて連れ出す。
「聖を送ってくるから待っててね。」
仏頂面で頷く、まるでテレビドラマにでてくる頑固親父みたいだよ、零。
「ねえねえ、零君よっきゅうふまん…っていうのじゃなぁい?」
げっ、なんで聖がそんな事知っているんだよっ。
「違うよ、ちょっと機嫌が悪いだけ。」
…原因は欲求不満だけど。
「もうっ、親が仲良くしてくれないと、僕困っちゃうんだからね。」
小さく返事をして手を引く。最近はマンションの隣に住んでいる高田さん家のかれんちゃんと仲良くてすっかりお世話になりっぱなし。朝もお母さんにお願いして連れて行ってもらっている、勿論お迎えも。
事情の方は別に聞かれなかったけどしょっちゅう「陸ちゃんも大変ね。」って言われる、何故だ?
部屋のドアを開けると既に朝食の食器は片付けられていて零は出かける準備をしていた。
「零…ごめんなさい…でもどうしても…叶えたかったんだ。」
背中に向かって声を掛けた。
「だって今日は僕達にとって特別の日だから…」
クックックッ…と、忍び笑いの声がして背中が上下に揺れた。
「分かってたよ、そんなこと。だから聖が言っただろう、『零君は欲求不満』あと『親が仲良くしないと子供は真っ直ぐ育たない』って。」
…二つ目の科白はちょっと違ったけど…零、気付いていたの?
「だから最初に聞いただろ?僕にも関係があるのかって。ったくとことん鈍いよな、陸は。」
馬鹿…バカバカ…意地悪、最低っ……でも大好き。
「初めて陸をこの腕の中に抱いた日だ、忘れるわけなんて無いだろう?あの日までの我慢を考えたら10日間くらいたいしたこと無いと思ったけど、真面目に辛かった、僕は色情狂かもしれない、抱きたい抱かれたい、泣かせたい、泣かされたい、イカせたい、イカされたい…ベットの中でそんなことばっかり考えていた。でも折角陸が何か考えてくれているんだからさ、それに乗ってあげなくちゃなって…。今朝のは本気だった、本気で抱かせてくれるかなって思って言ったんだけど、拒まれちゃったよ、カッコ悪い。」
舌をペロッとだして悪戯っ子のように笑った。
「今日の予定は、仕事を早めに終わらせてもらって聖を迎えに来て途中で聖の服を選んでもらってそれから新宿のフレンチレストランに予約をしてあるからそこで食事して、帰宅。」
「それだけ?」
「後は…部屋で」
二人っきりで…。
だって。たった一つの二人の記念日。
「そのうち毎日が記念日になるかもな。今日がセックス記念日で明日が同棲記念日、明後日は陸の手料理を初めて食べた記念日…」
僕は思わず嫌な顔をしてしまった。…その手料理って…緊張して失敗したオムライスの事だね。得意だったのに、失敗する方が不思議だったのになぁ。
「ぼんやりしてると置いてくぞ。」
「ん」
零に隠し事は出来ないんだ、直に見破られちゃう。じゃあ今僕が考えている事も分かっているね、きっと。
後ろから零の腰に両腕を全部回して抱きついた。
「零…大好き。」
「あのさ…僕は大体人が考えている事分かっちゃうんだ、昔から。でもただ一人…陸だけは分からないんだ。行動が子供っぽいからそれは想像が付くんだけど考えている事だけは分からない。だから…もっと言葉にしてよ、陸の言葉が欲しい。」
ポンポンって僕の手を優しく叩いた。
「だって…愛してるから…って言うのは照れくさいんだからな。」
って、零、僕だって照れくさいよ、顔が見られない。
「おい、陸、時間が無い。」
おわっ、大変だ。
10日振りに零の唇が僕のところまで降りてきた。それを軽く触れ合わせて僕達は玄関を後にした。
「そっか。聖、背が伸びたんだ、全然気付かなかったよ。」
(おいおいっ、それでも父親かい)って目で見たら(なんだよ)って目で見返された。
「聖は色が白いから黒とか紺色が顔の周りに無いとだめなんだよねぇ…顔が沈んじゃうから。」
「あっ、そうなんだ。」
本当に関心が無いのかな、この人は。
「これなんか似合いそう。」
手にとったのはピンクのセーター…人の話聞けよな。
「買ってやるよ、陸に。」
「僕?」
それは母子のペアで…つまり婦人物で…。
「聖と色違いで、可愛いだろ?」
解かってて言ってるね、今度は…本当意地悪。
「じゃあ、買って。」
開き直った。別に着れない事無いし、実際いくつか持っているしね。
結局聖には紺色のセーター(これがお揃いのやつね)と、茶色のパンツと黒のパーカー、そしてブルーのスーツ…いつ着せるんだい、そんなもの。直に大きくなっちゃうのにね。まぁ、いいか。
「今度はランドセルと机を買いに来なきゃね。」
「あっ、それはいいよ、涼ちゃんが買ってくれるって言っていたから。」
「えーっ、つまんないっ。」
聖と僕は同時に異議を申し立てた。3人で買い物ってたまにしか出来ないから嬉しいのに、その楽しみを奪わないで欲しい、という意味でね。
聖を連れてレストランに行くのは失敗だった。スプーンは落す、フォークとナイフは上手く使えない…ちゃんと教えただろう、家で。
それでも生意気に『子羊のロースト』とデザートの『クレメ』は気に入ったらしくて又連れて来いとせがまれた。
もう少し大きくなってちゃんと座っていられるようになってからね。次は…ファミリーレストラン、かな。
クローゼットの中から包みを出す。前に気に入って買っておいたんだ、今日のために。
「ね、プラネタリウムみたいでしょ。」
それは裏通りの雑貨屋で売っていた簡易プラネタリウム投影機でちゃんと四季の星座を映しだしてくれるんだ。電気スタンド形式の簡単なものとはちょっと違うんだよ、分かってる?
「ロマンチストだったんだ、陸って。」
この日のためにカーテンを全部濃紺に変えた。壁は、塗り替えるわけにはいかないからね、残念ながらグレーのままだけど、電気消しちゃえばわかんないもん。
10月20日の夜空を映し出した室内で僕は零の姿を探した。ベットの上で探し当てて横に腰掛けた。
「ねぇ、この星の数っていくつあるんだろう・・・」
僕は馬鹿な疑問を抱いてしまったわけで…それに零が乗ってきちゃって…数え始めた。
あぁっ、大馬鹿…僕ったら…一晩中数えていたらどうしよう。
「…35、36…ねぇ陸の願いは叶った?」
「うん、零が欲しいって願ったから。」
「これ以上なにが欲しい?」
「零の未来全部。明日も明後日も来年も再来年も全部。過去はいらない、未来が欲しい。」
ばふっ、とそのまま押し倒された。
「可愛い事言ってくれるね、この口は。」
反論を塞がれた唇からはもう喘ぎしか漏れない。それでも僕の目は星を数えていた。星の数になんか負けないくらい愛し合おうね、零。
「あっずるいぃっ、僕もお星様がいいなぁ。」
もう、お約束だね、いつもいつも…聖には負けちゃう、しょうがない君にこの夜をあげるよ。
3人で星空に抱かれて眠ろう、きっと素敵な夢が見られる。
翌朝、本気で零が怒っていたのは言うまでも無い。
それで僕はテーブルマナーより先に性教育をしちゃおうと決心した、スウェーデンでは3歳から実行しているって話だし。このままじゃ僕だって…。
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