The movie original
ピチョン…
 バスルームの天井から冷たい滴が落ちてきた。
 レイはそれを額で受け止めた。
 腕を動かすとかなり湯の温度が低いと思われる、ピチャピチャした音が鳴る。
「レイ、まだか?」
 バスルームの外から男の声がした。
 それに対して返答もせずに黙って天井を見上げた。
ピチョン…
 再び冷たい滴が額を直撃した。
 それを合図に、レイは気怠げに立ち上がる。
 しみ一つ無いきれいな背中。
 ザブザブと湯から上がり、バスルームを後にした。
 バスローブを羽織り、ドアを開けるとそこは寝室。ベッドには先ほどレイを呼んだ男らしき人物が裸で横たわっていた。
「遅い。」
「イヤなら帰るけど。」
「イヤじゃないから待っているんだろうが。早く!」
 手招きをすると仰向けに寝た。
 レイはため息をつくと男の顔を跨いで、自らは男の股間に顔を埋めた。
 ピチャピチャと水音が響いた。
 激しくなる鼻息。
ぷはあっ
 男は大きく息をついた。
「もういいから、挿れよう。」
 レイの顔に表情はない。
 男の股間を跨ぐと、レイはゆっくり、腰を下ろした。
「ふぅ」
 大きく息を吐くと、男の胸に掌をあて体重をかけた。腰を浮かした。ゆっくりと腰を下ろす。これを繰り返した。


 再びバスルーム。
 今度は熱い湯でシャワーを浴びた。
 レイの双眸からはシャワーの湯か、涙かわからない滴が流れていた。


「おはよう」
 完璧と言っていいほどの綺麗な顔で笑顔を向けられたら思わず息が止まりそうになる。
「今朝は早いんだな。」
 少し物憂げに視線を落とした。
「まあね。」
「ヤらせろよ。」
 レイの耳元に囁く。
「友達とは、寝ない。」
「じゃあ絶交するから。」
「知人とは寝ない。」
「はっきり言えよ、お前なんかタイプじゃないってさ。」
「好きだよ、タイチ」
 レイは又、華のような笑顔を向けた。しかしどことなく寂しげだ。
「寝不足なんじゃないだろうな?目が赤いぞ。」
「大丈夫。ありがとう。」
 携帯電話の販売店。そこでレイとタイチは働いていた。
 レイは訳ありらしく、朝も夜も働いている。ー夜は身体を売って。
 タイチは勝手にレイが乱れる姿を想像してみたが、男とのセックス経験がないのでレイが女のように、さらにはアダルトビデオの女優みたいにアンアン喘いでいる姿を想像していた。
 しかし普段の姿からはとてもじゃないが妖艶なレイは想像出来なかった。
 比較的重い荷物も持つし、店内の蛍光灯が切れれば脚立を持ってきて普通に代える。
 窓拭きもするし伝票整理もする。
 当たり前なのだがなぜか不自然に思える。
「タイチの彼女、ユキちゃんだっけ?」
 突然恋人の話を振られて焦る。
「いいよな、彼女。うらやましい…。」
「ちょ、ちょっと待て!わかったよ、謝るから。」
 レイがニヤリ、笑った。しかし不敵な笑みさえ様になる。
「レイにそんなこと言われたらユキなんか一発で落ちるよ…。」
「なんで?タイチにぞっこんっていう風に見えたけどなー。」
「なら、いいんだけどな。」
 恋愛のこととなると大抵の人間は及び腰になると思うのだが、レイは違うのだろうか?
「レイ…好きな人がいるのか?」
 レイは破顔した。
「いるよ。ずっと、その人を思ってる。伝えられないからね、意気地無しだから。」
 そう言ったレイの顔は優しげで…寂しそうだった。
 相手は男なのか、女なのか、聞きそびれた。


「や…お願…い、…助け…て。」
 レイは今夜もベッドの上で喘がされていた。
 昨夜とは違う、プロレスラーの様な屈強な男が、両脚を抱え上げ、砲口しながらレイを突き上げる。
「おっきいよ…中、壊れちゃうっ。」
 男はレイの訴えには耳も貸さず、更にピッチを上げた。
「あぅっ…ひぃっ!」
 綺麗な顔が歪んでいく。
「あっ、あっ、あっ…」
 レイの喘ぎと、結合部から洩れる水音と、肉がぶつかり合う音。
「あっ、あっイっちゃうイっちゃう、イクっ」
 レイは精を勢いよく吐き出した。その反動で内部が収縮し、男もまた達した。
 互いの激しい息づかいが聞こえた。
 息が整うと、レイは上に乗る男を押し退けさっさとバスルームへ向かう。
 よく見ると昨夜と同じ部屋だ。
 レイがシャワーを浴びている間に男は部屋を出ていった。
 バスルームの中でやはりレイは泣いていた。


「合コン?」
 レイが訝しげな目で見返してきた。
「別に彼女を作れとかじゃなくてさ、気晴らしにパーッと騒いだらいいよ。」
「何日?」
「レイの都合でいいよ。」
「なら明後日。」
「OK。」
 タイチはレイが承諾するとは思っていなかったので驚いていた。会社の同僚との飲み会にも参加しないのに。
「ユキちゃんも来るの?」
「昨日からユキにこだわるなー。」
「可愛いじゃない、あの娘。タイチがうらやましい。」
 レイがそう言っても、タイチには真実味がなかった。
 毎晩、男と寝てるくせに…と、心の中では侮蔑していた。


「あぁ、いいよ、んっ…」
 初老の紳士然とした男だった。
 ベッドの端に腰掛け、レイを膝まずかせて股間の怒張をしゃぶらせている。
「この歳になると、外からの刺激がないと勃たないんだ。」
 言い訳をしているがこの男はフェラが好きなのだ。口内に精を吐き出すとそそくさと帰って行く。
 レイは壁に掛かった時計を見た。
「二時間か…。」
 そう呟くとベッドに横になり、すぐに寝息を立て始めた。
 二時間後、先ほどとは別の男がやってきた。
「レイ」
「ん…」
「起きろ。」
「あ…んー」
 のそりと身体を起こす。
「ヤるぞ。」
「ん…」
 布団を自ら捲り上げ、高く腰をあげて尻を突き出す。
「寝ぼけていて出きるのか?」
「前のヤツはケツ使わないから…。」
「そういう問題じゃない。」
 説教しながらも男はスーツを脱ぐ。
 今までで一番品がある男だ。
 ズボンの前をくつろげると、シャツは着たままで前にジェルを塗る。
「慣らしたのか?」
 見ると拡張器がすっぽりと収まっていた。
「淫乱め。」
 ずるりと引き出すと躊躇いもなく一気に肉塊をずぶりと突き入れた。
「ひっ」
 背後から羽交い締めにされ胸を仰け反らせる。
 男は出し入れをせずに腰をグラインドさせた。
「あんっ」
 レイの腰も快感を求めて揺れる。
「気持ちいいか?」
「ん…気持ち…い…い…あんっ」
 更に奥へと腰を進める。
「あんっ…い…イイっ」
「こんな身体じゃ女は抱けないな。」
「はあ…んんっ…もっと、もっとちょうだい」
「毎晩こうして咥え込んでいるのにまだ足りないのか。」
 男は嬉々として抽挿を開始した。
「あ…んっ…んっ…」
 レイのヨガり声が室内に響きわたる。
 見た目は品があったが、セックスは一番品がない。



「えー!彼女いないんですかー?」
 女の子達に囲まれてレイが嬉しそうな顔をしているから、まあいいかな。
 ユキは呼ばなかった。正確に言えば風邪気味だというので大事をとらせたのだ。
 なのでイマイチ気分が乗らない。
 レイの片思いの相手がずっと気になっていた。
「なあレイ。片思いの人ってどんな人?」
すると、昨日はあんなに嬉しそうに話したのに、一変して厳しい表情になった。
「ごめん、イヤならいいんだ。」
「いや…聞いてもみんな引くから。」
「え?」
 男か?期待に胸を膨らませた。
「女優の渡カナミ。」
 …え?
「幼なじみなんだ。」
「えーほんとにー」
 途端に女性陣が色めき立つ。
 でも…言えない相手なのか?
「連絡先は知ってるのか?」
こくり
 肯定した。
「なら…」
「芸能人だから…色々あるらしい。」
 色々…ねぇ。



「ただいま。」
 玄関の鍵を開け、明かりも自ら点けたのだから誰もいないのは明白だ。
 なのに奥へ声を掛けてしまう。
「おかえりー」
 しかし意外にも寝室から返事があった。
「レイちゃん遅いから寝てた。明日も早いしね。」
「うん…ごめん。」
「ううん。謝るのはあたしなのに…いつもドタキャンしちゃうから。」
 レイの頬にキスをした。
「カナミね、こんど映画に出るの。」
「凄いな、カナミはどんどん遠くにいっちゃうな。」
「ううん。心はレイちゃんの元にあるからね。」
 深く口づけを交わす。
「でね、お金がいるの。」
「今度はいくらなんだ?」
「一千万円。」
「な…」
「大丈夫、なんとかするから!これ以上レイちゃんに迷惑掛けられないもの…でもね、レイちゃんが一緒に映画に出てくれたらいらないの、お金。」
「前から言ってるけど、その話は絶対に受けないから。金はなんとかする。」
「…映画に出た方が早いのに。」
「イヤなんだ。」
「そっか…寝る?」
 カナミはレイの腕を取ると寝室へと引き込んだ。
「早くしよ?」
「ん…」
 レイはカナミを抱きしめた。



「タイチ、悪いけど引継をしてくれないか?」
 タイチは突然店長に呼ばれた。
「引継って誰か辞めるんですか?」
「ああ、レイがな。」
「ええっ!」
「俺も驚いたよ。真面目に頑張っていたのにな。」
 タイチには納得がいかなかった。レイを問いつめた。
「なんでだよ?」
「んー昼間の仕事が負担になったんだ。夜の仕事だけで十分だし。」
「…身体、ボロボロになるぞ。」
「サンキュ、心配してくれて。」
 レイはやはり華のように微笑む。
「…仕方ないんだ、バカだから。」
 誰がバカなんだよ…。しかしタイチはそれを言葉にして口にすることが出来なかった。



「はっ…あっ…」
 朝から夜中まで、同じ部屋の中で違う男とまぐわう自分の顔を、ずっと壁の大鏡で見ていた。
 イヤらしい顔、物欲しげな顔、ヤってもヤっても満足しない顔…大きく脚を開き、尻穴に男の欲望を受け入れ、身体を仰け反らせて歓喜の声をあげる…男は至福の表情でレイの中に精を吐き出す。
 ただの排泄行為だ。
 それが自分の今の仕事だから。
 この仕事を始める前、レイはカナミと同じ芸能界の仕事を少しやっていた。
 レイが出演したドラマは必ずヒットしたのでドラマの神様の様に扱われた。いつも主役の友人とか弟とかの端役ではあったが、仕事が切れたことはなかった。
 しかしカナミと幼なじみであったことが災いして、写真週刊誌に撮られたことが切っ掛けとなり、足元を見られることになった。そして現状に至る。
 カナミが仕事をとるにはレイが男達と寝なければならない。
 女のカナミより男のレイの方が男達に人気があるのだ。
 芝居に夢を持って田舎から出てきたのに、身体を自由にされた挙げ句来る仕事は端役ばかり…。
 いつしかテレビ画面から消え、食べていくために仕事を変えたが、カナミの要求は増すばかりだ。
 芝居への夢はとうの昔についえた。今はベッドの上がレイの舞台。








「…陸、これ、読んだ?」
 聖がリビングのテーブルに一冊の文庫本を投げるように置いた。
 表紙を見てギクリとしてしまった。
「あ、零のドラマの原作…だね。」
 聖には見せないようにしていたのに…。
「本屋に行ったら平積みになっていた。エッチシーンしかない。」
 心の中で小さくため息をついた。どんな内容かは聞いているけど実際に読んではいない。
「零がやるのはその続きなんだ。エピソードってやつだよ。」
 すると聖はものすごく驚いた顔をした。
「だって!このエッチシーン、陸だよ。」
 は?
「陸の日常だよ!」
 僕は手に取りページをめくった。
【原案協力 加月零】
 …どういうことだ?
「絶対零くんがリークしたに違いないよ!」
 まさか。
「ほら、ネットで出回っているボーイズラブもこんな感じじゃない?」
「だって!表情とか仕草とか陸としか思えない。零くんはこんなんじゃないもん。」
 聖が僕たちの性生活を覗いていたのは知っているけど、詳しすぎるよ…。
「人権侵害だ!」
 それを聖が言うんだ…身内だから仕方ないか。
 中をさらっと読んでみる…えっ?
「僕ってこんな感じなの?」
「全くもってその通り…だね。」
 やだな…淫乱だよ、これじゃ。
「僕がわざわざ陸の痴態を世間に公表すると思うか?…っていつもだったらこの辺で現れるけど…いないね、零くん。」
 当たり前だよ、ドラマじゃあるまいし。
「零くんが陸と結婚してるって知っているのは制作サイドにいるの?」
 聖が珍しく真面目な顔で聞いてきた。
「初ちゃんたちが結婚式に招待していたのは芸能関係だった気がする。」
「なら…零くんがバイだって知っている人がいるんだね、きっと。」
「あの…」
 不意に背後から肩を叩かれた、都竹くんだ。
「携帯電話には出ないし、インターホン鳴らしても気付いてもらえなかったから…時間ですよ、陸さん。」
「え?あ!大変!仕事だ!」
 すっかり忘れていた。
「えー!僕には何もないの?」
 オロオロする僕を後目に、聖がここぞとばかりに都竹くんに甘える。
「聖くん、僕は今、お仕事モードです。」
 まとわりつく聖を引き剥がした。
「けちー!いいもん!あの本みたいに浮気してやる!」
ビシッ
と、指さした先には先程の文庫本があった。
「…読んだんですか…言ったんですよ、零さんのファン層を考えろと。小中学生がいても不思議ではないですよね?悪影響です。」
「中学生男子とセックスする成人男性は悪影響ではないのですか?」
 聖はふざけて言ったつもりなのだろう。しかし都竹くんには冗談と受け取れなかったらしい。
「そうですね。では終わりにしましょう。」
「え?ちょっと待って…」
パシッ
 追い縋る聖の腕をはらった。
「陸さん、行きますよ。」
 それきり、都竹くんは振り返らなかった。
 僕は後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。だけど気になったから零に早く帰るようメールだけはしておいた。
 車を運転しながら都竹くんは言い訳を始めた。
「すみません、聖くんを傷つけたかもしれません。だけど最近の彼は僕との仲を終わりにしたいと思っていたはずです。でも言い出せないでいた。それは陸さんを再び追いかける苦しさに勝てないからです。陸さんへの報われない想いを常に抱えて…僕には支えることは出来ません。あの小説の主人公みたいに、身を滅ぼしてしまえばいいとまで考えたことがあります。誰彼構わす脚を開いて受け入れる人なら想いは叶うのに…あなたがですよ?たかがセックスって割り切ってくれればみんな気持ち良くなって幸せになれる…でも陸さんは違う。女々しく愛を口にする。それが間違いではないことをみんな知っているのに諦められない。なのに零さんは惨い、気持ちをかき乱す…。」
「ちょっと待って、みんなって誰?僕は聖の話だと…。」
「そうです、聖くんの話です。聖くんが愛する陸さんは誰からも愛される魅力を持った人です。」
「そんな…」
「零さんしかみてないでしょ?だから見えないんです。あなたを狙っている人は沢山いる。零さんと斉木先輩が守っているから。」
 心臓がバクバク鳴る。
 これは警鐘だろう。
「大丈夫です、なにもしません。ただ聖くんをもっと見てあげて欲しいだけです。」
 都竹くんは聖を愛してるんだ。
 本当に。
「聖に、電話していい?」
「はい。」


 そして、零のドラマは12月21日から十日間連続で放送される。


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 玄関ドアが開く。
 ピカピカに磨かれた革靴が現れる。
 ブランド物のオーダーメイドスーツに身を包み、彫像の様に整った容姿の男は見覚えがある。
 何年か前、テレビドラマで見かけた顔だ。
「お話があるというはあなたですか?」
 丁寧だが高飛車な口調だ。
「名塚 嶺基(なづか れいき)さんですか?」
 胸ポケットから黒い革製の手帳を見せたら、男の表情が少しだけ揺れた。
「ええ、昔の芸名は…今は七瀬 花蓮(ななせ かれん)です。本名は…赤石川(あかいしがわ)嶺基です。」
 自己紹介をしながら私の向かい側のソファに脚を組んで腰掛ける…脚が長いことを強調しているみたいで腹立たしい。
「と言うことは現役の俳優さんですか?」
 大人の対応で取り繕う。
「いえ…今はプロブレムと言う名前のバンドでボーカルをやっています。」
「プロブレム…あぁ、先月イギリスでライブをやったとかで若い連中が騒いでいましたよ。」
「それは。刑事さんのお耳にまで届いているとは光栄です。…で、ご用の向きは?」
 早く帰れ…そう聞こえるのは気のせいだろうか?
「女優の渡カナミさんの死亡事故に関して、少しお伺いしたいことがありまして。」
「…捜査ですか?お一人で?」
 捜査活動は基本二人で行う…刑事ドラマも余計な情報を流してくれるな。適当に作ってくれればいい物を…。
「まだ確信を得られないので個人的な興味を含んでいると思っていただければ結構です。」
 七瀬は皮肉な笑みを浮かべた。
「…では正直に答えなくても構わない、そういうことですね?」
 仕方がない…。
「まあ、正直に話していただくのが一番いいのですがね。」
「そりゃあ、そうですよね。」
 七瀬は笑った。
「彼女の遺体から少量ですが覚醒剤反応が出ました…すでに報道されていますが…それについて何かご存じではないですか?」
「別に私は彼女のつれあいだった訳ではないですし、知らないのが当然ではないですか?旦那に聞けばいいじゃないですか。」
 それがわかればここにいない…。
「その旦那なんですが…どなたなんでしょうか?戸籍はまっさらのままなのです。」
「そうですか。旦那は離婚できなかったのかもしれませんね。彼女はちゃんと戸籍を変更したのに…。」
 なんだ、この男、知っていたのか。
「彼女とは、」
「幼なじみです。」
 深く追求されるのを避けるようにすべて言い終わる前に回答してきた。
「最後に会ったのは一年前、突然音信不通になりました。多分旦那…映画プロデューサーの東海名賀 葉香士(とみなが はかし)ってご存じですか?相手はその人です。すべて捧げて、人生さえ捧げて死んだんです、彼女…いえ、彼は。」
「あなたはやはりご存知だったのですね。」
「刑事さんは私に何を聞きたいのですか?」
「あなたが覚醒剤に供与しているかどうかです。」
「彼女に渡したのが私か、と聞きたいのですね。なら答えはNOです。私は法を犯すことは嫌いだ。身を落としても法は守る。」
「売春は違法ですよ。」
「売ってはいない…ただ…」
「ただ?」
 七瀬は俯いた。
「ただ、渡りをつけただけです。セックスは問題ないですよね?それを担保に仕事の話をまとめるんです…自分のこと以外で。」
 そういうことか。
「それも十分売春ですよ。まあ、覚醒剤のことはゆっくり担当が署で聞くことになると思います。」
 ゆっくりと立ち上がる。
「私はこれでる」
「あの…」
「はい?」
「結局あなたの目的はなんですか?東海名賀さん。」
 なんだ、気付いていたのか。
 仕方がない。
 再びソファにどかりと腰掛けた。
「気付いていたのならこんな回りくどい言い方しなきゃいいじゃないか…なんでカナミと結婚してやらなかったんだよ?」
 七瀬は明らかに、呆れた…という顔をした。
「出来るわけないですよ、カナミがまだタカシと名乗っていたときからの付き合いです、女の身体になったあいつを抱けますか?…男だったら違ったのに…。」
「男なら抱けるのかよ。」
「えぇ。」
「死に損だな、あいつ。覚醒剤の大量接種が原因だよ。まあ、あんなぺーぺー女優、誰も気になんか掛けないよな、お前と俺以外。」
「好きだったんですか?」
「愛してたよ。でもあいつはあんたが好きだった。」
「知ってました。何度も迫られたし、俺の為に性転換したとも言われました。だから…あいつの為に仕事をし続けたんです。それがあいつに負担になっていたのもわかっていたけど、それしか方法がなかった…バカだから、俺たち。」
 つまり…男の姿形をしたあいつが好みだったんだ。確かに滑稽だ。
「覚醒剤なんか出てねーよ。それに俺たちはちゃんと入籍もした。あいつはあんたに未練なんかなかったよ、ただ単に俺が嫉妬して偵察に来ただけだ。」
 言い捨てると慌てて俺はこの場所を後にした。







「なんで零の役名をあんなにいくつも付ける必要があるのかわからないよ。」
 それには零も頷いた。
「でも東海名賀の気持ちはわかる。」
 聖が呟く。それに対して再び零が頷く。
「問題は…、」
 零が真剣な顔で言った。
「この間のプロローグ本、読まないとわからないじゃないか、内容が。」
 あ。本当だ。
「東海名賀Pの陰謀だよ。」
 え?
「実在の人物なの?」
「うん。しかも本人だよ、あれ。」
 へー。出たがりPか。
「あの人、カウントダウンにも出せって言ってたんだよ、断ったけど。」
 …絶対そうだ、この人、零を狙ってる。
 頑張らないと!

 何を?