さっきの話だけど、信じていいの?
聖くんからのメールは僕の神経を逆なでする物が多い。でもまだ13歳じゃ仕方ない。自分で彼の手を取ったときから分かっていた。
構わないよ
どっちつかずの返信をする。彼が困るのを見越している。
ありがとう
意外な返信があった。
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写真スタジオの控え室。今日はアルバム用の撮影なんだけど、陸さん一人。先日の撮影結果が納得行かなかったらしい。陸さんにはありがちなことだったりする。実物の方が映えるからね。
「昨日はありがとう。お陰で今朝は元気に出掛けて行ったよ。」
陸さんから直接言われると胸がざわつく。でもこれは聖くんが言うみたいに恋愛感情ではない。あくまでも憧れだと思っている。そうでなければ仕事がやりずらい…と、ずっと自分に言い聞かせてきた。
好きだという自覚はある。
でもどうにかしたいわけではない。だから憧れなんだと、零さんと同じだと思うことにしている。
「陸さん、もう少しだけ聖くんと付き合ってみます。」
陸さんは優しく微笑んだ。
「都竹くん、好きな人がいるんでしょ?いいよ、無理しなくても。聖も分かっている、都竹くんは今のままではダメだってこと。」
「ダメってどういうことでしょうか?」
「他人に振り回されずに自分に素直になりなさい…だって。えらそうでしょ?」
…やっぱり聖くんはいちいち僕の感情を逆なでする。
「僕は…」
言ってどうなる。
「恋愛がよく分からないんです。」
最低な答えだ。
「斉木先輩みたいに強引に引っ張ってくれる人なら良かった。聖くんには無理だから…。」
ダメだ、これ以上は。
「好きだけど、違うんです。」
でも陸さんは気付かなかった。
「そうだよね。都竹くんにとって聖は弟みたいだよね。」
弟とも違う。手のかかる乳児だ。聖くんが好きなんじゃない、陸さんにもっと近づきたい、ただそれだけ…。最低だ。僕はいたいけな中学生を利用している…。
「聖は都竹くんが大好きなんだ。」
違う、聖くんは僕なんか好きじゃない。陸さんに歳が近くて身長も同じくらいだから選んだにすぎない。
「聖くんは陸さんを忘れるために僕と付き合っているんです。だから僕はセックスはしないんです。」
一度だけ、聖くんと寝た。しかも僕が受け入れた。
「いいよ、構わない。聖のお守りを押しつけてごめんね。だけどこれからは僕が、」
「ダメです、陸さんはダメなんです。」
聖くんが一番傷つく。
「…一線を越えなければ良かった。二人ともただ寂しかっただけだから…。」
陸さんは俯いた。それは聖くんを思っての行為だ。
「都竹くん、好きな人がいるならなんで告白しないの?好きなら砕けたっていいから当たらないと、叶わないよ。」
「好きな人?」
「聖じゃないんだよね?」
僕は返事をせずに俯いた。
「斉木先輩に頼んで、担当を変えてもらいます。」
陸さんの表情が歪んだ。
「ごめん、僕が悪かった。だから、」
「違うんです!」
叫んだ途端、何に対して違うのか、答えが見えた。
「違うんです、僕、好きな人がわからない…子供みたいなこと言うけど、本当に誰を好きなのかわからないんです。聖くんは可愛い。だけど時々一緒にいてイライラするんです。」
陸さんがびっくりしたような顔で僕を見た。
「都竹くん。本来は親代わりの人間が言うことじゃないかもしれない。でも敢えて言う。聖を…、」
一度、言葉を切って俯いた。しかしすぐに顔をあげて僕の目をまっすぐに見て、こう言った。
「聖を、抱いたらいい。」
…
確かに親代わりが言う台詞じゃない。
「聖くん、陸さんとの約束を大事にしているんです。」
「都竹くんと付き合いを続けるなら反故にするよ。何を言われても構わない。僕は零以外の人と添うつもりはない。それは聖も該当するんだよ。都竹くんが本当に聖を想ってくれるなら、聖の全てを引き受けてくれる気になって欲しい。破局したって構わない。それは努力したうえでの結果だから。」
陸さんが微笑む。
「都竹くんがイライラするのは聖の気持ちが見えないからだよ。」
陸さんはそう言うと控え室を後にした。
聖くんの気持ち
彼は陸さんが好きだから。
だから?だからイライラするのだろうか?
だったら自分の気持ちはどうなんだろう?
僕はいてもたってもいられず、陸さんがスタジオで撮影中、隅で聖くんにメールをしていた。授業中だろうから、返事は期待していない。
しかし意に反してすぐに返事が来た。来たのだが、
うん
しか書いてなかったので、イライラは解消されなかった。
「都竹くん、電話鳴ってるよ。」
スタジオからの帰り、車の中で携帯電話が鳴った。
僕は会社から支給されている物と、プライベート用の二つを持っている。
陸さんが掛けてくるのは仕事用、聖くんが掛けてくるのはプライベート用。
今鳴っているのは仕事用だ。
仕事用は緊急の場合があるから何が何でも出ないといけない。
「すいません、出ていただけますか?」
こんなことは日常茶飯事だ。
「OK。もしもし?え?」
最初のもしもしと次のえ?は明らかに声のトーンが違う。誰だろう?
「りょーかい。じゃあね。」
陸さんが電話を切った。
「都竹くんの恋人から伝言。プライベート用に掛けたけど出なかったから。だって。メールするってさ。…なんか嬉しそうだったよ。」
それだけ言うと携帯電話を鞄にしまってくれた。
鞄の中で静かにメールの着信を知らせるメロディーが鳴った。
聖くん。そろそろ「くん」なしで呼んでもいいかな?
僕は聖が好きだよ
うん
電話に陸が出てびっくりしたよ。
さっきはありがとう…は変だね。
嬉しくてすぐに返事がしたかったんだ。
隼くんは陸が好きなんだと思ってた。
僕も、隼くんが大好きだよ。
声が聞きたいな。
『こんばんは
今夜は僕と陸でお届けします、アクティブザナイト、最後までおつき合いください。』
「あっ」
聖くんが小さく声をあげた。
「やだっ、恥ずかしいよ。」
僕は聖くんのベッドの中で、彼のパジャマに手を突っ込んだのだ。
「キミが欲しい。」
「ん…」
拒否はしない。
「キス、して。」
聖くんは目を閉じた。優しく唇を合わせ、舌で歯列をこじ開ける。
「んんっ」
喘ぐ声が聞こえた。
舌をさらに押し進めて中で縮こまっている舌を捜し当て、引きずり出す。舌に絡めて口腔を舐め回した。
聖くんの口辺から唾液がしたたり落ちる。
下着の中からすでに興奮して立ち上がる肉塊を掌で包んだ…途端、
「ひゃあっ」
と言って聖くんが射精した。
肩でハアハアと息をしている。
「気持ち良かった?」
「うん。すごく。この間は無我夢中だったけど今は隼くんに任せればいいんだって、そしたらイッちゃった。」
まだ、いいか。
もう少し大人になったら、身体を繋ごう。
聖くんを抱き寄せて…眠ってしまった!
ゴンっ
「痛いっ」
頭を叩かれたらしい、ジンジンと痛い。
「何す…おはようございます。」
仁王立ちの零さんがいた。
「間男。」
ガーン。
「何?まおとこって?」
「聖は知らなくて良い。なんで都竹が聖のベッドで寝ているんだ?まさかヤったのか?」
零さんの怒りはMAXに近い…気がする。
「ヤった!」
聖くん!
「ダメなの?健全なおつき合いしかダメなの?すごく…あ、零くんには教えない。」
ドツボにはまってないか?
「最後まではしてません。」
いや、説明になってない。
「責任とれ、聖を嫁にしろ!」
「やーだー僕はお婿さんがいいー。」
論点がずれてる…つーか、陸さんがいない。
それより早くベッドを出ないと。慌ててベッドから降りた。
「そんな格好かよ…。」
素っ裸だった。
再び大慌てで服を着た。
「あのさ、僕にはまだ聖を守るという義務がある。だからそんな簡単に聖と寝るとか困るんだよね。」
零さんと陸さんは意見も違うし考え方も違うということだ。
「…だからさ、」
へ?しまった、考えごとしていたら聞きそびれた。
「僕らの目の届かないところにしてくれる?」
「え?」
「それが親心だろ?」
バタン
後ろ手でドアを閉めて出ていった。
「良かった〜零くんもOKみたいだね。」
も?
「だって陸からは昨日聞いた。」
陸さ〜ん!
「大丈夫、零くんだって十六歳の陸とセックスしたんだから。僕だって誕生日がきたら十四歳だしね。」
無邪気に聖くんは頬にキスをしてきた。
「次は最後までしようね?」
僕は黙って首を縦に振った。遠くで玄関ドアの開く音がした。 |