子作り宣言
「えっとね、ドタマ一発はね、派手にライドオ…」
 すると頭上から怒声がした。
「却下。陸、そんなにガッツくな。」
 初ちゃんにいきなり否定された。
 ショボン…


 いよいよ東京でのライブです。
 全国ツアーファイナルなので、ベースは変わらないのですが、やっぱりちょっと変えたい…というのが僕らの意見。
「頭は新曲。」
 僕がテンパりながら提案をしていたのに、冷静な初ちゃんが決めてくれちゃいました。(決めやがりましたと言いたいところをグッと我慢…)
 派手な曲が良かったなー。
「と言うことで、陸、派手な新曲よろしく。」
 え?
 聞いてないよ〜(泣)
「それをシングルに考えようか。」
 初ちゃんが更なるプレッシャーを掛けてきて、僕は声も出せない。
 また暫く零との蜜月はお預け…だなー。


「また曲作り?」
 家に帰るなり、パソコンとにらめっこしている僕を見て、聖が苦笑する。
 ずっと僕の後ろでノートパソコンをいじっていた零が顔を上げた。
「ああ、聖の仕掛けた罠だろ?そんなに僕たちの仲を裂きたいのか?」
 珍しく零が聖に嫌味を言っている。
「初にくだらないこと、吹き込むな」
 くだらない、こと?
「くだらなくないよ?陸は暇そうだと言っただけだし」
 …くだらなくはないな。事実だし。
 はぁ
 つい、僕は口に出してため息をついていた。
「大丈夫、派手でカッコいい曲書くよ。」
 身構えてもそんな物は生まれてこない。まずは気持ちが大切だ。
「出掛けてくる」
 とりあえず、DVDを借りてこようっと。


「おはよう…おわっ!何?陸何があったの?」
 リビングの惨状を見て聖が慌てた。
 DVDプレーヤーの蓋は開いているが、テレビの画面は消えている。
 テーブルの上にはDVDのケースがいくつも放り出してあり、五線譜に音符が書き込まれた物が散乱している。
 キッチンのシンクにはグラスやらマグカップやらコーヒーサーバーやらが放置してあるし、更にタオルを首に掛け、ソファーから降りて床でまだ音符を書き続ける僕を見て聖が口を開いた。
「陸、ごめんなさい…別に追い込むつもりはなかったんだ…ただ陸が一番充実した時間は音楽に囲まれているときみたいだから、力になりたいと…まもるちゃんに言っただけなんだ…」
 僕はぼんやりした思考の中で、うっすらと見えた聖の輪郭に向かって、
「大丈夫。僕は天才だから…」
と、強気な発言をした。
 大丈夫、大凡の骨格は出来ている。これは零と僕のラブストーリーだ。
 誰もが羨むような、そして祝福したくなるような、そんな曲。
 …夕べ、昔のミュージカルを観た。恋人と仕事と仲間に挟まれて悩んですべてを失い、最後には恋人の命さえも失う…そんなストーリー。よくある話だ。
 だけど。僕は恋人も仕事も仲間も家族も失いたくない。
 そんな思いで書き上げた。
 派手…ではなかった。


「地味だね」
「アレンジでなんとかならないかな?」
「どれ?」
 零が譜面を手にしてパソコンの前に座り、音楽ソフトを立ち上げた。
 最初にドラムの音を入れ、キーボード、ギター、ベースの順。
「第一案」
と言いながら音を作った。
「下手に派手にする必要はない。陸の想い、全てを乗せたらいい。」
「そうだね…そうだよね」
 零が僕を抱きしめてくれた。
「でも一発目は派手な曲がいいな…一緒に作るか」
 …え〜


 結局、更に翌朝まで二人で考えに考えて一つの曲が生まれた。
 気付いたら僕たちは共作をしたことがなかった。
 こんなに長い間一緒にいるのに、一緒に何かを生み出すという作業をしなかった。
「零…これって僕たちの子供みたいだ。」
「みたいじゃなくてそうだろ?初めての僕らの子供だ。」
「うん」
 僕たちでも、二人で生み出せるものがある。きっと他にもあるはずだ。
「陸」
「ん?」
 零がすっくと立ち上がり、僕の身体を抱き上げた。
「…もう、限界…」
 そのまま寝室に直行した。
「無理だって〜…ん〜」


 結局、二晩貫徹(途中、ちょっと寝たけど)して新曲二曲を持ってミーティングに出掛けた。
「いいね、こっちの。」
 みんなが言っているのは僕が作った方。
「でも地味だ」
 …分かってるよ。
「だから、こっち」
「なんだ、もう一つあるんだ」
 そっと、二人の共作を差し出した。
「陸の曲じゃないね」
「うん、零と作った」
「零と?」
 一同、振り返った、零を。
「やっと出来たんだ、おめでとう。」
 再び全員が零に向かって祝福の言葉を掛けた。
「陸は気付かなかっただろうけどさ、零の悩みだったんだ。陸と一緒に作品を形にしたいっていうのが。だけどなぜか陸の前では言えないって。」
 僕は慌てて零を振り返った。
「ごめん」
 ううん、僕の方こそごめんなさい。もっと早く気付いていれば…。っていうのは帰ったら話そう。
 零、これからは一杯、作品を形にしていこうよ。
 何時の日か、名コンビって言われるような、一杯の子供たちを残していこうね。