| 「結局さ、零さんは陸を独占したいんだよ。」 久しぶりに収録でかずくんに会って話をしていたら、話の流れが妙な方向に行ってしまった。でも、そう言われても僕にはよく意味が解らなかった。
 「だってさ、陸の友達って、誰?」
 …
 …
 誰?
 「みんな仕事関係の人間だろ?」
 …コクリ
 黙って頷いた。
 「あ、でも…地元の同級生なら…少し…」
 元々社交性がないからそんなに親しく付き合ってはいない。
 「たまには遊びに行ってみたら?また一緒に競馬場行く?」
 それは、悪魔の囁きに等しかった。
 
 
 「やっ…ダメ…も、無理…ごめ…」
 零の身体の下に組み敷かれて、すでに何時間か経過している。その間、ずっと零は僕の中に存在を誇示している。濡れた卑猥な音を立てて、出たり入ったりをゆっくりと繰り返しているのだ。
 ゆるりゆるりと、犯されている…。
 「な…んで?」
 「言っただろう?陸は誰にも渡さない…って。」
 「同級生と飲みに行くだけなのに…」
 「ごめん、それがイヤなんだ」
 その言葉に嬉しいと思い、浅ましくも僕の内壁はきゅっと収縮してしまった。零の背に回した腕に力が入る。
 「あっ…ん」
 どくんっ
 零が中で弾けた。
 
 
 「え?」
 「だから…二人の話を聞いてたんだ、ごめん」
 まただ。
 「零は、」
 思わず視線を外した。
 「僕を信じていないんだね…でも仕方ないか、僕も零のことすぐに疑うからさ…」
 「違う、そういう意味じゃないんだ。陸が他の人と話しているだけで何もないことは解っているのに胸が苦しいんだ…醜い嫉妬だって解っていてもダメなんだ…」
 零をこんな風にしてしまったのは僕のせいだ。
 「大丈夫だから。同窓会には行かない。」
 「ごめん、本当にごめん!行ってきて良いから。」
 零が僕を抱き寄せる。
 「我が儘なのは解ってる。だけど…陸の同級生には女の子もいるだろ?だから心配なんだ。あと三年もしたらみんな嫁に行ってるから心配はないんだけどさ…」
 ん?女の子?嫁?
 「零…僕が女の子苦手なの、忘れてるよね?それは同級生にも該当するんだけどな」
 すると、意外な返事が返ってきた。
 「陸が女の子苦手なのは解ってる。女の子が陸をどんな目で見るかが気になるんだ。」
 言われて、なんとなく解った。
 零は僕を疑っているんじゃなくて、周囲から守ってくれようとしているんだ。
 「ありがとう」
 僕は、零の背に腕を回し、口を耳に付けて直に伝えた。
 
 
 「ただいま」
 結局、僕は同窓会に出掛けた。中高一貫教育の学校だから、高校中退の僕には本来行く資格はない、はずだ。
 今回は有志が集まって開いた会なので、気にすることはないのだが、みんな温かく迎えてくれた。それはやはり嬉しい。
 「月に1回くらいやりたいって言われたけど、流石に無理だなー、スケジュールが合わないや。」
 僕らの仕事は昼夜問わずにスケジュールが飛び込む。
 「みんなに何時零と結婚するのか突っ込まれたからもうしたって言っちゃったよ。面倒だから。」
 その言葉に零と聖が驚いた。
 「同窓会でカミングアウト?」
 「ん?ああ、僕が零のこと好きなの、みんな知ってるよ。だから学校辞めるとき誰も不思議に思わなかったんだよ。」
 二人は顔を見合わせていた。
 「陸、前から聞きたかったんだけどさ、学校辞めたときのこと、教えてくれないかな?」
 あれ?言ってなかったかな?
 「いいよ。あのね…」
 
 
 
 
 「野原!」
 又、怒られた。
 「お前は成績が良いんだから心証を悪くするような行動は止めなさい。まず、髪をなんとかしなさい。」
 なんで、僕はわざわざパパと同じ学校に入ったんだ?
 「父の時には言われなかったと思うのですが、校則が変わったのでしょうか?」
 「高校生が高校生らしくするのは当然だろう?いいか?今日帰ったら床屋に行け!」
 「イヤです。先生、僕の仕事、知ってますよね?」
 「だから言っているんだ!つべこべ言うな!」
 まるで軍隊のようなことを言う教師だな。
 「父からちゃんと就業に関する届け出はして貰っています。問題はないはずです。」
 毎日、これの繰り返しだ。
 
 
 「またかよ?」
 クラスメイトも毎日のことなので呆れかえっている。
 「野原、担任に言ってやれ、人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてしまえってな」
 「蹴られて死んじまえじゃないの?…え?」
 「流石に担任相手に死んじまえはまずいだろ。なんだ?」
 「恋路…って…」
 「零さん…だろ?野原の口から名前の出ない日はないからな。俺たちさ、最初は零なんて名前だから女だと思ってたんだ。でもテレビ見てたら違うじゃないか。最近は同棲して居るみたいだし、順調なんだろ?」
 まじ?
 「…気持ち悪くないの?」
 単純に同性を恋うクラスメイトって嫌悪すると思っていたからかなり動揺していた。
 「最初から陸は男だと思ってないから。」
 ん?
 「なんか違うだろ?」
 「そうか?陸に男を感じてるヤツなんていないって。つーわけだから安心しろ。」
 よく解らないけど理解を示してくれているんだ。
 「その代わり次の中間試験に出そうな問題、教えてくれないか?」
 そういうことね。
 「いいよ、昼休みならね。夕方は練習があるから無理だけどさ。」
 苦手な科目はどうするか…だが。運命共同体ということで。
 当然、あとからみんなに散々怒られた。
 
 
 ある日。
 確かテレビ局へ行くから早退した日だ。普段は学校が終わってからでないと、零に怒られるから行っていたけど、その日はどうしても30分早く出ないと間に合わなかったんだ。
 「野原」
 又、担任に呼び止められた。
 「職員室に来い」
 「なんですか?髪は切りません。以上。」
 担任に背を向けたが、強引に職員室へ引きずり込まれた。
 「学校とテレビ局とどちらが大事なんだ?」
 いきなり、そう切り出したんだ。
 「テレビ局…って言うか仕事。先生だって仕事放り出したりしないですよね?」
 「神聖なる教職とヘラヘラした楽団を一緒にしないでくれないかな?安心しろ、お前が居るグループは大成しない、お前がいるからな。授業は最後まで受けろ!届けは受理できない。」
 頭ごなしに言われて、僕はその時、頭の中でブチッて音を聞いた。
 「それは、ないでしょーが、いくらなんでも。」
 でもそれを発したのは僕ではなく、ほかの用事できていたクラスメイトだった。
 
 
 「…なんの不備もないです。何が問題なんですか?うちは芸能活動を認めているんですから、許可できない正当な理由がないと無理です。」
 クラスメイトは部活の用事で顧問の所に来ていた。
 「…先生が進学校に憧れているのは知っています。だから成績の良い生徒はもっと伸ばしてやりたいと思うのも仕方ないです。でも既に自分の道を歩き始めている生徒の未来を否定してはダメでしょう。まさか未だにエレキギターは不良とか言い出すんですか?」
 担任はクラスメイトの部活顧問にコテンパンに言い含められた。
 その日は帰れたんだけど翌日から何でもかんでも僕に言いつけるんだ、用事を。
 流石に困ったからパパに相談したら、副教頭がパパの三年生の時の担任で、副教頭に早退届けを出すことで話はまとまった。
 だけど今度は帰り際に嫌がらせをするんだ。
 担任がどうしてあんなに嫌がらせしたのか、今でもわからない。
 だけどいい加減頭に来て教頭に相談して休学届けを出したんだ。パパに心配を掛けたくなかったから。
 
 
 「ちょっと、待て。今休学届けと言わなかったか?」
 は!零には退学って言ってあったんだ。
 「あ、だから…」
 「それはいつまで有効なんだろう?」
 「え?」
 「まだ使えるのかな?」
 
 
 「実は…野原くんに関しては当時の教頭が、全面的に復学をバックアップしてやって欲しいとおっしゃってまして、再試験を受ければ…」
 まさかと思って学校の事務に連絡をしたら後日受付に来て欲しいと呼び出された…。
 「全日制でも構いませんが、通信教育というパターンもあります。」
 通信教育?
 「テキストとICレコーダーで学んでもらい、月に一回通学して貰うという形です。すでに二年の一学期までは終了しているのでそれ以降の履修となります。」
 すごい!そんなシステムもあるんだ。
 「そうしたら、高卒の資格になるんですか?」
 「はい」
 「やります!やらせてください」
 僕には過ぎた望みだ。
 
 
 「高校を卒業したら、大学に行きたい。もっと色んな言葉をしりたい。」
 英語を学びたい。それが夢。
 「行ったらいいよ。陸がやりたいこと、やればいい。」
 「うん」
 多分、大学には行かない。だけど常に先を見て歩いていたいんだ。夢を見ることが出来るのが人間だから。
 同じ所に留まっていたら何も始まらない。
 とりあえず、高校を卒業しよう。
 
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