仕事について
 新曲も出来た、ライブも演った。
 あとは何をするか…決まってる。
 新しいライブツアー!


「えーとですね…」
 斉木くんが言いだしずらそうに口ごもる。
「初さんは新人のプロデュース…本人の希望です。隆弘さんはバラエティーのロケ、零さんは映画…畑田さんはオフです…で、陸さんは…」
「僕は?…つーか、剛志くんのオフって何?新婚旅行にでも行くの?」
 すると、斉木くんがスケジュール帳を閉じた。…図星?
「いつ引っ越しするの?」
「来週…」
 マジだ!びっくり!
「おめでとー!」
「同居はしません!隣になるだけです。近い方が便利かな…と。」
 なんだか面倒な二人だな…いや、斉木くんが面倒なのかな?
「で!陸さんはミュージカルですけど。」
 …ミュージカル?…
「なんで?」
「さあ?裕二さんに聞いて下さい」
 はい、聞きます。いますぐ。
 ポケットから携帯電話を取り出し、電話帳を開く。
 パパの番号なんて滅多に掛けないから忘れちゃったよ。
『いいじゃないか、ステージ上で演奏するくらい』
 なんだ?それ!
『斉木からなんて聞いたか分からないが、ミュージカルの生演奏を舞台上に出ずっぱりで行う。問題あるか?』
「他のメンバーは?」
『その道のプロを選んだそうだ。先方からわざわざご指名してきたんだからありがたく思え』
 …つーか、どうして僕のマネジメントを毎回パパがやるのかな?訳分からないよ…。
 電話を切る少し前に、剛志くんが現れた。


「面白そうだな、それ。俺は指名されなかったのか…残念だ。」
 剛志くんが本気で残念そうにつぶやいた。
「畑田さんにもオファーはありましたが、その期間は絶対にスケジュールを入れないように言われたので入れていません。」
 斉木くんがウンザリという声で反論した。
「そーか、その期間なのか…なら仕方ないな。」
 あっさりと撤回してくれた。
「どうして陸はそんなに裕二さんの持ってくる仕事を否定するんだ?面白いもの目白押しなのにな。隆弘の元彼が聞いたら喜ぶようなネタばかりだ。」
「馬砂喜さんですよね?出演者に名前がありましたよ。」
 斉木くんがさらりと新情報を挿入してきた。
「馬砂喜くんってミュージカルもこなすんだ、凄いな。」
「知り合いがいて良かったな」
 剛志くんは早々に話を切り上げたいようだ。なんだ、斉木くんを迎えに来たのか…。
「これからデート?」
「ああ。」
「違います!」
 二人が揃って違うことを叫んだ。
「…分かったよ。じゃあね。」
 僕は事務所の会議室を後にした。


「裕二さんは陸に打診しないんだ…って、しないよな、遊んでるんだから。」
 帰って零に話したら呆れ顔で言われた。
「陸からは断れないよな。」
 零は断って欲しそうな言い方だ。多分馬砂喜くんがいやなんだろうな。
「隆弘くんと馬砂喜くん、まだ終わってないみたい。」
「そうなの?てっきり終わったのかと思った。なら良いんじゃない?」
 …現金だ…。


 僕の夢は好きなことだけをして生きていきたい。だけどそれだと生きていくという行為が続行不可能だからやっぱり無理にでも嫌いなことをやらなければならない。
 でも最近はイヤなことの方が多い気がする。
 本当は音楽に携わることだけをやりたい。
 悪いけどパパの野望も出来れば遠慮したい。
 毎日ギターを弾いて、音符を追いかけて、スタジオで悩む…ん?どこかで見たな?そんな人。
「それじゃあご隠居みたいだよ。水戸黄門が忌み嫌うパターンだよね」
 聖はテレビゲームをしながら僕の話を聞いていた。器用だなぁ。…って、みんなに愚痴ってるなんて子供みたいだ。
「そうかな?」
「だってメディアに露出しなくなったら忘れられるよ?そうしたら好きなことなんて出来ないって。」
 あ、聖が負けた。意外とゲームと話をすることは聖でも難しいんだな。
「陸の仕事って特殊だよね。音楽が好きなだけじゃダメなんだよ。ちゃんと人前にでることも想定しないといけないしね。…隼くんはそれが出来ないと悟ったんだって。」
 最近、聖は都竹くんとの付き合いをオープンにしてきた。
 多分、聖にとっての都竹くんは兄のような感じなんだろう…兄と性交するかと言えば、僕にそんな感情を抱かせてしまったのだから、それも致し方ないのかもしれない。
 でも都竹くんに聖の世話を全面的に押しつけているようでなんだか申し訳ない…と思うのは聖に対しても失礼なんだけどね。
「ケーキ職人がさ、」
 聖の目を見る。ちゃんと聞いていてくれた。…ゲームのコントローラーは片付けていた。
「小さな店を持ったとする。資金はギリギリ。店員は雇えない。そうしたら朝早くに作って昼間は店に立つ…そういうことだよ。別に特殊じゃない。ただ売る物が違うんだ。好きだと思ってもらえるものを作るのがプロなんだ。」
「そうか…別に特殊じゃないんだ。隼くんは好きな人をバックアップ出来て嬉しいって言ってたよ。だから売り込みに行くのも平気なんだってさ。パパは職人さんみたいだからみんなそうだと思ってた。」
 パパ…って涼さん…?ん?何か引っかかる。
「僕のパパは人前に出ることのみを仕事にしているよ。」
「そうか〜ゆうちゃんはそうだよね」
 …ゆうちゃん?いつからそんな風に呼んでいるんだろう?
 聖は僕の知らないところで日々刻々変化している。すでに追いつけない状態まで来ているように思う。
「聖」
「ん?」
「高校はどこへ行くか決めた?」
「うん。陸の学校に行く」
「え?何で?」
「陸を差別した先生を見返したいんだ…今からなら陸と一緒に通えるしね?例え一年でも。」
 …そういうことか…
「僕は通信教育だから時間割が全然違うよ?」
 九月から、通信制の高校二年をやり直しすることになっているんだ。
「あのさ、僕はそんなに頻繁には通わないよ?通信制だから」
「そうなの?でもいいや、同じ学校を卒業できるんだもん」
 …そういえば、いつから通信制なんて出来たんだろう?
「九月からだから卒業も違うんじゃないかな?」
「そうか…かなり残念だな〜でも同じ高校に行くよ、決めたんだ」
 なんか、企んでいる…ような気がする。


 ミュージカルは最終的にスタジオで録音したものを使うことになった。全員のスケジュールが合わなかったからだ。
 上演中、聖と観に行ったけど馬砂喜くんが歌ってるのを不思議な感覚で見ていた。…だって普通の役なんだもん。
 思った以上に時間が出来たから、都竹くんと二人でライブ案を立てているところだ。
 勿論、新曲も作っている。
 創作活動も捗っているし、充実した毎日を送って…あ!涼さんだ!僕の理想の生活をしているのは涼さんだよ、うん。
 だけど僕はライブが一番好きだからまだ水戸黄門にはならないよ、うん。


「ちょっ…まっ…」
「潤いのある生活には豊かな性生活を挿入して欲しいな」
 そう言って零は十分に成長した欲望を僕に挿入して明け方まで喘がせた…明日の映画撮影に影響しないのかな?
 そう言ったら心配する方向が違うと、零が呆れかえった。





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《特別編》

※以下は本編ラスト部分のシーンです。エロ全開ですのでご注意ください。※


 Tシャツの裾は既に鎖骨の辺りまでたくしあげられている。
「あっ…んっ」
 零の舌が触れるか触れないかの微妙さで僕の乳首を舐める。が、時々軽く歯を立てられて全身に電気が走ったような衝撃に襲われる。
「や…んんっ」
 その隙をついたようにショートパンツの裾から左手を突っ込まれた。
「や…だぁ…」
 まだ芯を持たないままぐったりとうなだれていたが、零に緩急をつけて握り込まれたために熱を孕んで首をもたげる。
「んっ」
 零の唇は僕の唇を捕らえ、痛いほど舌を吸われた。
 互いに舌を絡ませ、唾液を啜り合う。
 気付いたらショートパンツは下着と一緒に足首にたぐまっていた。
「だ…」
「ダメ?」
 ふるふると首を左右に振った。イヤじゃない、ダメでもない。
 零が、欲しい。
 両足を纏められて膝をグイと胸まで押し上げられた。
「陸のここ、ピクピクしてる。」
 零の舌がアナルの皺をひとつずつ伸ばすようにゆっくり解してゆく。
「あっ、あっ、んんっ」
 気持ちいいっ。
 ツプリ
 指が一本差し込まれ、中でうにゅうにゅと動かされた。
「ひあっ」
「ここ、陸のウイークポイント」
 入り口のちょっと先に僕のウィークポイントがあるらしい。
 更に一本指が差し込まれ、別々の動きをした。
「やっ、やっ、ダメっ…うあ、イイ、イイッ」
「どっちなの?」
「イイッ、気持ちいいっ」
「入れて、いいってこと?」
「うん…入れてっ」
 零の指が更に一本、差し込まれそれぞれ別々の方向に動かされ、拡張されている。
「イヤだ…」
「イヤなの?止める?」
「ヤダ…止めちゃやだぁ…」
 僕の身体、どうしてこんなに感じちゃうんだろう…おかしいんじゃないかな?
 身体の奥の方から射精感に襲われる。
「やっ、やっ、イッちゃうっ、出る、出るぅっ」
 身体は硬直し、小刻みに痙攣すると性器から勢い良く射精してしまった。
「あーあ、一人でイッちゃったんだぁ」
 零に責められる。
 僕が出したものを零は指で掬い上げ、入り口と奥に塗りこみ、自分の性器にも塗りつけた。
 一度イッた身体は弛緩してされるがままになってしまった。
 零は力を込めて自分の性器を僕の中に沈めた。
「あぁっ…んんっ」
 入れられることに抵抗は全く無いけど、この場所に性器を入れられて擦られて、気持ちいいと感じるのはおかしいことではないのだろうか?
 男が男を恋うること自体、おかしいのではないだろうか…
「陸、考えないで良い、ただ、感じていればいい…」
 そうか。
 ただ、零のこの熱を感じていればいいんだ。
 おかしくたっていい、僕は零が好きだ。愛してる。
 零の熱を孕んだ性器を、ここに受け入れて気持ちよくなりたい。
「あっ、あっ、あっ…」
 零が気持ちいい、零とのセックスが気持ちいい、零の性器が気持ちいい。
「もっと奥…擦ってぇっ、もっと、もっとぉ」
 足を零の腰に絡ませて結合を深めようと力を込めた。
「陸」
 零が苦笑交じりに名を呼んだ。
「そんなに力を入れたら動けない」
 ハッとして力を緩める。
「陸は、可愛い…ずっと…変わらずに可愛くて、愛しい。」
 唇にキスが落ちてきた。
「あっ…あっ、あっ、来る、来る来るぅっ」
 僕は必死で零の手を探り当て力いっぱい握り締める。
「何が、来るの?」
「なかっ…奥からぁっ…あぁっ」
 零の動きが激しくなる。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 射精するよりもっと大きなオルガスムスに襲われた。
 中がぎゅっと収縮したために零が小さく呻いて果てた。いつの間にか射精していたようだ、中がもの凄く熱い液体でいっぱいになっている。
「陸…力、抜いて。千切れる。」
 あっ…でもまだ痙攣が続いていて制御できない。
「そんなに良かった?」
 こくり
 僕は頷いた。
 また、唇にキスが落とされた。
「僕も、凄く良かった。幸せ。」
 チュッと音を立ててキスが落とされる。
 身体から力が抜けていった。
 ずるっと音がしそうな勢いで零の性器が抜かれたと同時に、大量の精液が溢れ出た。既に僕が吐き出した精液と交じり合って、シーツはベトベトだった。
 好きだから抱き合いたい。抱き合ったら繋がりたい。繋がったら気持ちよくなりたい。
 これは自然なこと。
 ただ、性別が同じだっただけのこと。
 おかしなことはない。
 あれから自分に何度も言い聴かせた。
 …零を好きだと自覚したときからずっと、ずっと自分自身に繰り返し言い続けてきた。
 愛したらいけない人、愛し合うことは叶わない人、結ばれることは無い人。
 でも、そっと想うことは罪ではないと…考えてしまったことが発端だった。
 溢れ出た想い。
 それを受け留めてもらった時から、僕は零以外のことに関しては何でも受け入れようと決めた。
 僕には過ぎた願い。それは零を手に入れること。だから他の事は精一杯努力をして誰にも迷惑をかけないようにしたい。
 現時点ではじいちゃんにも、ばあちゃんにも、パパにも、ママにも、涼さんにも、夾ちゃんにも、実紅ちゃんにも、聖にもいっぱいいっぱい迷惑をかけているから、恩返しをしなきゃ。
 だけども零だけは、手放したくない。
 僕は零の身体をぎゅっと、抱き締めた。
「なに?まだ、物足りないの?」
 …零は物凄い勘違いをして、再び僕のぐちゃぐちゃになっている中に性器を挿入したんだ…なんて底知れない性欲なんだろう…。
「陸、僕は陸を犯り殺したいと思ってるくらい、陸と常に繋がっていたいと、願っている。ダメか?」
 組み敷かれている状態で言われたら、頷くしか出来ないじゃないか…構わないけどね。
 零を受け入れた部分はぐちゅぐちゅと卑猥な音をさせて、僕を快楽の世界へ引きずり込んでいった。