| 「ACTIVEのライフスタイルにしよう…って決めたよね?初ちゃん?」 「決めた…かな?」
 今夜はSEcanDsでのライブ。
 以前はここで月に一回ライブをしていた。だけど個々の仕事が増えて二ヶ月に一回、三ヶ月に一回とどんどん減り、最近はゼロに近い。
 「…事務員さんに頼んで書類にする?」
 初ちゃんが大きくため息をついた。
 「決めたのは会長だよ。そして反故にしたのも会長だよ…正確には別の仕事を入れて邪魔しているんだな。」
 また、パパか…。
 「毎月十五日って、決めない?」
 「会長に掛け合ってくれ。僕にはどうしようもない…」
 
 
 初ちゃんに言われたからじゃないけど、パパの自宅に押し掛けた。
 たまたま書斎にいたパパは僕の話を聞くなり、経営者の顔になった。
 「構わないが、他の仕事に支障は出ないか?」
 カチンときた。
 「あのさ、僕たちはACTIVEという母体が有っての個々の活動なんだよ?ACTIVEの仕事が最優先にならなきゃ意味がない。…どうしてパパは僕らの仕事に口出ししてくるの?会長なのに…」
 「知らないのか?ACTIVEの総合プロデュースは麻祇と俺だよ」
 「嘘!他にそんなタレントいないよね?」
 「俺以外はな。あ、あと涼がいる。」
 「そうか、涼さん…え?涼さん?いつから?」
 「先月から。」
 しれっとした顔で言うからタチが悪い。
 「身内は俺が仕切る。悪いか?」
 「…迷惑だよ。僕たちは僕たちのやりたいようにやらせてくれないかな」
 「…うちは、慈善事業団体じゃない、あくまでも事業としてタレントのマネジメントとプロデュースをしている。金になるタレントで金にしなかったら会社が成り立たないだろ?わかったか?」
 頭をポンと叩かれ…かなりムカついた。
 「百歩譲ってパパの仕事は受けたとしても、ACTIVEの活動は縮小したくない。」
 パパは小さくため息をつくと、椅子に腰掛けパソコンを立ち上げた。
 「ACTIVEがACTIVE本来の活動をしていたら、いつ家が建つんだ?どちらの両親も一日千秋の思いで待っている。」
 家?
 「それは、ママが…」
 あれ?確か資金難だと聞いた気がする。
 「あっちもうちも問題はない。おまえたちの家が問題なんだよ。」
 ママの話では一つの建物にそれぞれの家族が割り当てられて、みたいな話だった。
 「あっちとうちからそれぞれ零と陸に土地を相続させ三棟、建てることになった。早く金を出せ。」
 強請みたいなセリフだな。
 「そんな話聞いてない」
 「今初めてした」
 「それじゃあ…」
 「零は全額自分が負担すると言い出した。何様だ?あいつ。」
 「全額?総額っていくらなの?」
 「最低でも三億だぞ?」
 「そうか…」
 零なら、持っていると思う。
 「僕はいくら出したらいいの?とりあえず立て替えるの?なら銀行に行かないと…」
 「待った!お前たち…あるのか?」
 「あるよ。だって今のマンション買っただけだよ、零は。僕はいくつかギター買っちゃったからなぁ。」
 「涼と相談してくる…」
 パパは突然立ち上がり、飛び出していった。
 
 
 「ただいま。零いる?」
 自分たちのマンションに帰り着き、一番に零を探した。
 「家の話、聞いた?」
 「うん」
 零からの返事はそれだけ。
 「僕は知らなかったよ」
 「それには理由があるんだ。」
 零は立ち上がるとパソコンの前に座った。
 何かのソフトを立ち上げると画面が変わった。
 「全て、聖に任せている、あいつの夢は建築士だったからな。止めたらしいけど。」
 僕は零に対して返事が出来なかった。パソコンの画面を見ていたからだ。
 そこには家の間取り図があった。
 「僕たちの家?」
 「あぁ」
 そうか、そういうことだったのか。
 「陸にリサーチしなかった?どんな家に住みたいかって。」
 「うん、聞かれた!」
 半年位前に聖から色々質問されたことがあった。
 「このソフトは本物の建築士が監修していて、うちで頼んでいる建築士さんにアドバイスをもらいながら作ってるんだ。聖はそれで満足したらしいよ。あ、詳しいことは聖から聞いて。僕が話したことは内緒だからな。」
 僕が詳しく見ようとしたらソフトを終了させ、パソコンの電源自体を落とされた。
 「聖のプレゼン、楽しみにしててよ、ね?」
 そうだね、焦らなくても見せてもらえるんだもんね。
 「ねぇ、零、ACTIVEって収入ないの?個人活動しないとダメなの?」
 我が意を得たりといわんばかりの表情が僕に向けられた。
 「僕も思った。けど初も剛志も隆弘も、個人活動を楽しんでいる雰囲気なんだよね。それぞれが各方面から吸収してきたことを音楽に活かしているんだろうな、きっと。…僕は苦手だけど。」
 「僕も苦手なんだよね…」
 零がにっこり笑った。
 何か企んでいるようだ…。
 
 
 「企画書?」
 「自分がやりたいこと、出来ることを会社に提案しようと思うんだ…というのは建前で、初たちが焦りを覚えてくれることが狙いだよ。僕と陸の二人で、毎月一回、SEcanDsでライブをやりたいと提案してみるんだ。」
 零は嬉々として企画書を手に説明してくれた。
 「二人だけ…は無理だよね。サポートが必要かな…スタジオミュージシャンに依頼する?」
 「それも考えてある。毎回知人のミュージシャンにお願いする。例えばアーリーアンズの啄士とか…」
 啄士さんはアーリーアンズという50年代ロックをやるグループのベース。零の知人は多いからいくらでも頼む人はいる。
 「初の夢はずっとこの五人でACTIVEをやっていくこと。だから拒否するに決まっている。」
 そうだよね。
 僕はACTIVEが大好きなんだ。
 一回でも多く、ライブがやりたい。
 やり尽くすことなんかなにもない。
 次にやりたいのは、70年代ロック…俗に言うビートルズ世代の音楽。ちょっと興味があるんだ。
 そんな提案もしたいし、まだまだやりたいことは山積みなのに。
 パパが僕にやらせたいと思うことと、僕が本当にやりたいことは違う。
 だから両立する方向で努力する。
 僕は、ACTIVEの野原陸だから。
 
 
 案の定、零の提案は初ちゃんに拒否された。
 僕の方は採用してくれた。
 ということで、パパに直談判となった。初ちゃんはパパが僕に甘いことを心得ている。
 「パパ…あ、今日からお父さんって呼ぶからね。」
 「いやだ」
 …この人は大人げない…。
 「お父さん、ACTIVEは毎月15日にSEcanDsでライブをします。しばらくは70年代ロックをやるんだ。それから…単発ならドラマの仕事もやる。社会勉強を兼ねてね。あ、高校も行くから時間があったらね。」
 父はびっくりした顔で僕を見た。
 「高校、行くんだ」
 「うん」
 「視野を広げるにはそれがいい。」
 なんだか嬉しそう。
 「高校を卒業させるのは親の役目だと思うから、一安心って所かな。費用はださせてくれ。で、家のことなんだが…」
 
 
 「零!大変!」
 「どうした?」
 「僕たちだけで家を三軒建てろって!」
 「やっぱりそうきたか…聖!」
 「ん?」
 相変わらずゲーム中だ。勉強はやっているのだろうか?
 「例の物、プリントアウトして。」
 「うん」
 …ん?なんだろ?
 「行くぞ!」
 零は電話で涼さんと母に野原の家に行くよう伝えて乗り込んだ。
 「全て聖のデザインでいいなら、出す」
 零は自分たちの意見のみで作られた設計図を広げ、強気な発言をした。
 全員が聖の描いた設計図を見詰めた。
 「いいよ、これで」
 最初に発言したのは僕の父だった。
 「聖が俺たちに色々リサーチしていたのはこういうことだったんだな。」
 「零くんがね、僕の夢を叶えてくれたんだ。もう家を建てる夢は終わった。僕は次の夢を叶える。零くんと陸にも、夢を叶えさせてあげて。」
 父が、聖を抱きしめた。
 「わかった。聖の希望は叶えよう…いいよな、涼もあきも。」
 二人もうなづいた。
 
 そして。
 いよいよ大規模工事に取り掛かることとなった。
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