建築計画遂行中
 母ーえっと、いい加減、ママは止めることにしました(照)ーは、大きな一軒家にみんなで住む!と、張り切っています。
 父は、別棟でもいいが、全ての家を渡り廊下で繋ぐのではないかと予想。
「ぜーんぶ、却下で〜す」
と、聖が楽しげに言う。
「真ん中の僕たちの家に地下室を作り、スタジオと稽古場に当てます。で、全ての家と地下通路で繋げます。野原家は一階がおじいちゃんとおばあちゃんのスペース、二階はリビングなど共同スペース、三階はゆうちゃん、実紅ちゃん一家のスペース。加月家は一階が緒方のおじいちゃんとおばあちゃんのスペース、二階はリビングなど共同スペースと涼パパとあきらママのスペース、三階は加月のおじいちゃん、おばあちゃんのスペースです。」
「…夾は?」
 零が普通に疑問を挟んだ。
「僕と一緒に真ん中の家で一階です。」
「え?」
 全員が頭にクエスチョンマークをとばした。
「真ん中の家は一階が夾ちゃんと僕、二階はリビング、三階は零くんと陸のスペースです。」
 …夾ちゃんと、一緒…の家?
「僕たちはライバルだからフェアに行くことにしたんだ。」
「待って!夾ちゃんは普段、どこで生活…あ!」
 夾ちゃんと聖の部屋、零と僕の部屋は完全に独立スペースだ。キッチンと浴室が付いてる。
「わかった?」
「聖…」
 聖がまた僕から離れていく…そんな気がした。
「聖、それは聞いていないぞ。」
 言ったのは零。
「うん。夾ちゃんと話し合って決めた。犬のことも有るしね。」
 言われると確かに必要だ。
「全て二世帯住宅だと考えて下さい。真ん中だけマンションのような作りになります。」
「…零だけじゃなく、夾と聖も…なのか?」
 涼さんが図面を見つめたまま、顔も上げずに呟いた。
「ごめん」
「うん」
 夾ちゃんと聖は満面の笑みで同時に答えた。



「聖があんなことを企んでいたなんて知らなかったな…」
 あれから涼さんは頭を抱えてずっと考え込んでいた。
 大体の所は黙認してきたけれど、堂々と宣言されるとは思っていなかったようだ。
「お義父さん、僕は一途ですから、大丈夫です」
と、声を掛けたが、なんだか焦点がずれているように思えてきた。
「なんだかんだとやっぱり問題は山積だな」
「そうだね」
 やっと、野原の祖父母は建て替えを承知した。本来、野原家の土地はまだ祖父の名義だ。父には兄と姉がいるが、二人とも年が離れている上に相続放棄を早々に宣言している。
 だからと言って父を飛び越え僕が相続するのもおかしい。
 同様に加月家は涼さんが相続するであろうが、まだ決まっていない。母の実家だから飛び越えて零が相続してもおかしくはない。
 なんとも複雑である。



「謀反は終わったんだな。」
 事務所の会議室に集合命令がかかり、ACTIVEのメンバー五人とメインスタッフが集う。
 剛志くんは僕を見留めるとすぐにそう言ってきた。
「謀反なんて大げさじゃないし…ただ会長に分からせるにはああでもしないとダメだからさ。」
「自分の父親相手に結構大変なんだな。でも初はかなり凹んでた。」
 そうなんだ。初ちゃんのリアクションが予想外だった。
「ACTIVEのメンバーは音楽に関しては外でやるとは思えなかったらしいよ。」
「僕だってないよ。だから零から提案があったときかなり驚いた。」
 剛志くんがじっと僕を見ている。
「なに?」
「いや、確認しただけ。…悪い、俺さ、陸より零の方が付き合い長いしさ、陸は恋敵だったから、ちょっと疑ってた。今回の件は陸が零を誘ったんじゃないかって。ACTIVEなんかもうやりたくないのかな…ってさ。…あいつに怒られたよ。」
 剛志くんの言う"あいつ"は、斉木くんのことだ。
「陸のところ、家を建てるんだって?会長がはしゃいでたよ。」
 え?なんか呑気な人だなぁ。
「…やっと、夢が叶うんだってさ。…俺の夢も一歩近づいたよ。」
 剛志くんが照れくさそうに、惚気た。
「おはよー」
 そこに、隆弘くんが現れ、剛志くんの惚気は中断された形だ。
「おー!陸!良いところにいた。ちょっと聞いてくれよー!馬砂喜のヤツがさ…」
 今度はこっちの惚気だ。
「来月から地方公演じゃん?暫くACTIVEの仕事を休めないかって言ってるんだ…陸に。」
 へー…ん?
「なんで僕?」
「客演だって言うんだよなー」
「むりむり、断って」
 馬砂喜くんが大体苦手だし…。
 なんだかんだとACTIVEはみんな恋愛モードです…。
「ところで、零が初に反旗を翻したんだって?」
 やっと剛志くんが片づいたのに…。
「反旗じゃないよ。それぞれに仕事をするなら、僕たちも出来ることをしようと言うことになったんだ。それでやるならば本格的に…って…」
「俺たちに声かければいいじゃん。」
「ストレートに言ったら、初がうんと言うか?」
 剛志くんが意外なことを言った。
「…ヒネクレてる…と言いたいのかな?」
「そーそー…って、初か。」
 剛志くんの背後に、初ちゃんが立っていた。
「うーん。多分そうなんだと思う、裏をかくって言ってたから。」
「裏をかくんじゃなくて、初の性格を理解していると言って欲しいな。」
 …ACTIVEは全員揃った…。



「というわけで、月一ライブに加えて、月一新曲発表を一年続ける。」
 …なに!?
 上を行く初ちゃんの逆襲だ…。



「あれから少し変更したんだ。」
 帰った途端、聖が図面を持ってやって来た。
 全部鉄筋コンクリートの三階建てで、それぞれ独立した部屋にしようということになった。リビングルームではなく、集会所のような形にしたいらしい。
「もう少し手を入れないとダメなんだよね。」
 なかなか意見はまとまらない。
「陸は、同じ屋根の下に夾ちゃんがいたらイヤ?」
「ううん、イヤじゃないよ。だけどね…自信が無いんだ。自分の力に。」
「大丈夫、僕が守るから。今度はちゃんと、僕が守ってあげる。」
 そう言った聖の瞳は、ちょっと男らしかった。
「ありがとう。」
「本気だよ?」
「うん」
 わかってる。
 僕は心の底で何かを、期待している…。