遠い親戚、近くの親戚
 紆余曲折した建築計画は、僕たちの家を今流行の一軒家に見える集合住宅にする事とした。一部賃貸形式…ACTIVEメンバー限定…にしようと思っている。
 まだ誰にも話していないけど剛志くんと斉木くんが一緒に暮らせたらいいな…と言う僕の願望がある。
 聖の好きにばかりにはさせておかない…なんてね。


 しかし。
 一難去ってまた一難…。音信不通で相続放棄をしていた父の兄が突然やって来た。


「陸は、本当は誰の子供なんだ?」
 ほぼ十八年振りに会う叔父は、祖父の家ではなく、会社にやって来て父と僕を呼びだした上にいきなり不躾な質問を投げかけてきた。
「俺が知り合いの女に産ませた。それだけだよ。」
 父は叔父とあまり仲が良くない。歳が離れているのも原因だ。
「父さんと母さんは裕二のこの説明で二十何年間納得してきたのか?」
「父さんと母さんは相手を知ってる。知ってて産ませた。なんか文句はあるのか?」
 叔父は渋い表情を作った。
「…相続放棄した分、融通してくれないか?」
「難癖付けないで初めからそう言えばいい。いくらだ?」
「…円…」
「聞こえない」
「三千万円」
「…それは税理士に相談しないと動かせない金額だ。正式に相続放棄の手続きをした以上融通は出来ないんだ。」
 父は非情に取引をした。まだそんな手続きなど何一つしていないのに…。
「叔父さん、僕が…」
「陸。お前は黙っていなさい」
 叔父は大学入学と同時に家を出て以来一度も戻らずに現在の奥さんの親が経営する会社に就職。勝手に結婚を決めたことが原因で祖父から半分勘当されている。
 祖父は当時、小さな輸入雑貨の店を経営していて、それが何軒も軌道に乗っていた。それを継ぎたくないために逃げ出したのだ。
「…僕が父から相続する分を融通します。でも祖父はすでに他人へ経営権を譲渡しましたからこれ以上僕に入ってくることはありません。僕が稼ぐ分は息子の進学資金ですからお渡しできません。これで良いですよね?」
 すると叔父がにやりと笑った。
「へー。陸には子供がいるのか。」
「籍は入っていないし、僕の子じゃないけど、息子です。」
 そう、聖は僕の息子だ。
「親の背中を見て育つって本当なんだな」
 叔父は、お金を借りに来ている立場にも関わらず言いたいことを言う。
「…交渉決裂ですね?それでは存分に父と話し合って下さい、僕は失礼します。」
 言うと僕は席を立った。
「ちょっ、待ちなさい。」
 僕は無言で振り返る。
「兄貴、陸は一度決めたことは二度と覆さないよ。ちなみに俺には融通する気がないからいくら話し合っても無駄だ。だけど…今の話をあちこちで言いふらされても困る。」
「お父さん、僕は構いません。どちらがより、社会的に信用されているかという根本的な問題に直面しますけど。まあ、僕の高校再入学とどちらが話題性があるか…ですね」
 これでも何本かテレビドラマに出演しているんだ。経験を生かして、演技で脅してみせる。
「裕二」
 叔父は僕から目を逸らさずに父を呼んだ。
「この子は…男の子…だったよな?確かにおまえに似ている…美人だ。」
 …脅しは失敗だ…
「ものすごく色っぽく睨みつけてくるから女なら良かったのにと思ったよ。…家を建て替えるんだな…その前に一回、見ておきたかったんだ。」
「兄貴は相変わらず素直じゃないな…。家を出たのは、歳の離れた俺が食いっぱぐれないようにしてくれたんだろ?お生憎様、俺は俺でやっている。親父だって俺たちに自分の事業を残す気はなかったよ。」
 叔父は、にやりと笑った。
「親父は裕二を俳優にしたがっていた。裕二は美人だっていつも言ってたからな。…陸も美人だぞ。」
 なんだ、見抜かれていたのか。


「建坪率?」
 部屋に戻ると、零と聖が図面を前に悩んでいた。
「土地の広さに対して建物を建てて良い広さ…だね。」
「足りないの?」
「この案だと足りない。」
「裏の土地は買えないの?」
 裏手にある空き地を融通してもらえないだろうか?
「その空き地なんだけど…陸の叔父さんの持ち物になっている」
 叔父さん?
「陸のお祖父ちゃんが書き換えていたみたいなんだ。だからややこしい…」
 祖父もやはり父親ということか…。
「僕が叔父さんから買い取ればいいんだね」
 一体いくらになるんだろう?
 とりあえず交渉してみよう。
 でも…野原の家は意外にも資産家なんだな…なんでだろ?


「じいちゃん」
 僕は早速祖父の家を訪ねた。
「裏の?あー、裕太にやった土地か…登記変更すればいい。あいつには現金の方がいいみたいだからな。陸は気にしなくて大丈夫だ。それよりまた陸と一緒に暮らせる方が大事だ。」
 祖父は嬉しそうに笑った。
 現実はちょっと違う。近くに住むだけだ。
「じいちゃんさぁ、僕が結婚しないの、イヤ?」
 じっ…と、祖父の目が僕を見た。
「実紅が嫁に来たからちゃらだな。」
 …いまいち回答になってない。
「陸が零くんに抱かれているのを想像するのは案外容易いんだ。」
 な!
「じいちゃん…セクハラだよ!」
「でも、性交するんだろ?男同士で。昔流行ったんだよ、映画で。」
 どんな映画が流行ったんだ?
「裕二があきらちゃんに執着したのは、多分寂しかったんだろう。上二人は歳が離れていて中学に入ったときには出て行って居なかったからな。側にいてくれる人が欲しかったんだろうな。別れてから五年、相当遊んだみたいなんだよ。それに比べたら陸が男と結婚するのなんかたいしたことじゃない。」
 …わからない、祖父の言いたいことがわからない…。
「子供たちに話したことはないんだけどさ…若い頃、少しだけ映画俳優をしていた。」


「昔の映画ってじいちゃんが出てたの?」
「ロマンポルノみたいな内容だけど歴とした恋愛話だった。でも初めにそんな話だったからその後は偏見を持たれて続かなくなって辞めざるを得なかった。裕二が生まれたときにこの子は美人だから大丈夫だと夢を託したんだ。陸の恋愛観も納得している。」
 父も叔父も叔母も高学歴だ。当然祖父も頭がいいのだろう。
「ありがとう、じいちゃん」
 祖父が微笑んだ。


 夜、今度は父の方からやって来た。
「陸、お前又何かやっただろう?親父が変なことを言い出した。現金で兄貴にいくら融通できるかだってさ。」
「うん。建坪率の関係で叔父さん名義の土地を譲ってもらうんだ。」
 父はとたんに表情を和らげた。
「ああ、隣か。なら仕方ないな。」
「あの土地、昔はアパートがあったよね?じいちゃんが買ったの?」
「そうらしいよ。事務所のビルがあるところも親父が持っていた。」
 祖父は儲けがあると土地に投資していたようだ。
「俺が陸のことで無茶を言いだしたのに、上手く取りなしてくれたのは親父なんだ。」
 母に僕を産ませる為に叔母に協力を頼んだことを言っているんだ。
「親父には一生頭が上がらない…親孝行しないといけないとは思うんだよな。」
僕だっていい加減祖父に手間を掛けないように…って思っているけど、ついつい頼ってしまうんだ。
「陸」
「ん?」
「たまには頼ってくれて構わない…むしろ頼って欲しいと思う。今の状態だと俺はこの世の中に陸を送り出しただけなんだ。きちんと子育てしたわけでもない。だから少しくらい我が儘を言ってくれてもいいんだ。」
「なら…」
「なんだ?」
「アクティブのライブ、邪魔しないでね」
 父は心底がっかりしたようだ。


「…だから…んっ…しばらく…あっ…は、…大丈夫…あんっ…」
 話の途中で僕は零に押し倒された。
 足首をとられ、持ち上げられた。
 肩に担がれると、僕の中に零の怒張はゆっくりと押し入ってきた。
「何が大丈夫なんだ?」
「あ…んっ…くぅっ」
「喘いでいたらわからないよ」
「…む…りっ…」
 零の十分に育ちきった欲望が僕の内壁を擦りながら内臓を犯してゆく。
 ゆっくりと中に収められ、直ぐに引き抜かれる。
「やっ…」
「止める?」
「止めちゃヤダっ…んんっ」
 抽挿が繰り返される。
「あ、あ、あっ…」
 もう、零は一言も発することはせず、淡々と僕を喘がせ続けた。


「で?」
「…だから、パパがACTIVEの活動にとやかく言うことはなくなったから。」
「ないない、裕二さんが黙って陸のやることみているわけがない。家のことだって聖に色々注文してきたらしいしな。」
 注文?
「陸の部屋に直接入れる廊下が欲しいってさ。陸に内緒で。」
 なに?それ…。
「僕が陸を鳴かせるのを止められないのと同じで、裕二さんも陸にちょっかい出すのは止められないよ、一生。」
「な…」
 …またバカなことって思ったけど、さりげなく嬉しいことを言ってくれたので、怒るのは止めた。
 僕はずっと零のそばに居られれば、それだけで幸せ…ってそんな乙女チックなことを思ってしまった。


 隣の土地は名義はそのままで、僕が叔父から借りることとなった。
 叔父がその土地を持っていても家を建てるわけではないから売るしかないと言われたのだ。
 でも税金分を賃料として入れてくれれば持っていても問題ないのでその条件ならいいと言われた。
 「実家に行く口実が出来た」
と言って喜んでくれた。
 一度家から離れたら、そこはもう実家ではなく生家なんだそうだ。
「だから陸はそこから離れるなよ」
と、何故かハグされながら言われた。
 ハグ…なんだったんだろう?