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 年の瀬。
 少し前迄は、仕事を全部十二月中旬に切り上げて大晦日は三人でのんびり過ごしていたけれども、いつの間にかご他聞に漏れずカウントダウンライブなるものを開催している。
「だけどさ、会場に来ている人も本当は家族で過ごしたいんじゃないのかな?」
 メンバーがその場にいない気軽さもあって、斉木くんと都竹くんと辰美くんを前に、僕がぽつりと呟いてしまったのが切っ掛けだった。


 聖の所に彩ちゃんが久しぶりに遊びに来ていた。
「陸さん、カウントダウンライブ、イヤなんですか?」
「なんで?」
「ACTIVEのホームページにマネージャーさんのつぶやきで、『メンバーから大晦日は家族で過ごしたいと言う爆弾発言!』って書き込みがありましたよ。」
 僕は呆然としてしまった。ちらっと言っただけなのに、なんて素早いんだろう。
 しかも!
「これって陸さんが言い出したんだろうってコミュニティサイトで騒いでますよ。」
 なんてことだろう…流石僕なんかのファンをやってくれているだけある。鋭い!
「彩ちゃんはどう思う?」
「カウントダウンライブですか?んー…確かに彼氏と過ごしたいかも。」
 そのセリフに聖が反応した。
「そうか、そういう特典があるんだ。陸、来年からカウントダウンライブ止めようよ。」
 そーだよね、都竹くんも仕事だもんね。
「でも、そんな簡単には行かないんだよね。」
 スポンサーとか色々あるんだよ、大人の事情というやつだよ、うん。
「思ったんだよね、いくら大晦日といえども深夜だし、女の子の方が多いし、家族は一緒に居たいだろうし…邪魔しているのかなって。なら他の方法を考えたら良いんじゃないかと…」
 何の案も無いんだけどね。
 そんな話をして、カウントダウンライブを迎えた。


「…で、陸が来年からカウントダウンやりたくないらしいんだ、どーしようか?」
 ライブの真っ最中、零はMCの中でそんなことを言い始めた。
「…やりたくないなんて言ってない」
 僕は相変わらず仏頂面のまま答える。
「みんなが、家族一緒に新年を迎えられたらいいなと思ったんだ…」
 すかさず隆弘くんが意見を出した。
「家族全員参加にしたら?ライブ。」
 これには僕も反論した。
「ムリムリ、おばあちゃんとか倒れるから。」
 うちのばあちゃんがね。
「なら、ニューイヤーライブ?」
 零が言った途端、
「いいね、それ。よし思い立ったが吉日、来年からやろう。」
と、初ちゃんが乗ってきた。
 …お陰で翌日も仕事になった…
 まさか同じ会場を押さえていたなんて。
 しかも既に整理券配布済みなんて…。
「ん?整理券?」
「うん。」
「僕だけ知らなかった?」
「うん」
 …全員でハモった。
「と言うわけで来年からはニューイヤーライブとなります。みんな朝十時に集合!OK?」
 れーいっ!
「あの!」
 手を挙げてみる。
「リハやってない!」
「アクティブの曲だけだし大丈夫!」
 …また、全員でハモられた。
 そして、スケジュールを渡された。


 元日の夜。
「だーかーらー!」
 聖は文句たらたらだ。無理もない。カウントダウンが無くなってもニューイヤーライブじゃ、何も変わらない。
「でも夜中にウロウロするのは危険だよ、うん。」
 正直に言えば、ACTIVEのライブに行ってトラブルに巻き込まれたとか、イヤじゃないか?
 僕は、聖と零のこと以外責任取りたくないんだよね…って、冷たいかな?
「でも…僕らもアラサーになったんだし、ファンも同じくらいじゃ、ないのか?」
と、零が呟いたのに僕は気付かなかった。


 カウントダウンもニューイヤーライブも終わり、一週間の休みに入った。
「痛いなぁ」
 僕は思いきり零の手を叩いた。
「当たり前じゃないか!僕が真面目に話してるのにどさくさに紛れて触ってくるなんて…」
 いや、触られるのは嫌いじゃないけどタイミングをきちんと見極めてほしいだけなんだが。
「寝室に難しい話を持ち込むな!ここでは陸と愛を交わすのみ、有効とする!」
 真面目な顔をして零が言う。
「ならリビングに移動しよう。」
「いや、だから〜」
 ガバッという音がしそうな感じで、抱き締められた。
「…陸が欲しい…我慢出来ない。」
 言いながら首にキスの雨を降らせた。
「あ…んっ」
 思わず僕も声を出してしまった。
「ちが…んっ」
 ダメだ、抵抗できない。
「好きだよ…陸」
 言うと背後から不自然な角度で首を曲げられキスをする。なんだか奪われている…という感じで卑猥だ。
 でも…それが功をそうした(?)かもしれない、僕の下半身は意思を持ったかのようにむくりと鎌首をもたげた。
「ほら、陸のここだって、僕に構って欲しいと訴えてる。」
 自分の都合の良いように解釈すると、巧みな手つきであっと言う間もなく追い上げられ、追いつめられ、快楽の中に放り込まれてどうしようもなくなる。
「じゃあ、何で僕だけ何も知らなかったの?」
 頭を精一杯働かせて、聞きたかったことを口にする。
「…全員、陸が好きだなんて、参ったよな…」
 零に抱き締められた。
「陸は、誰に何を言った?」
「誰に?何?分からない…あっ」
 僕が考えている間に零は掌にジェルをたっぷり塗りつけて僕のペニスを扱き始めていた。
「なん…だか、…んっ…わかんないっ…あんっ」
「斉木も都竹も辰美も、陸の希望は叶えてあげたいとか言ってた。腹立たしい。」
 僕のせいじゃない!と言いたいのに…
「やっ、ダメ…待っ…てぇ…」
と、訳がわかんないことを呟いていた。
 零はこれ幸いにと、空いている手でお尻をまさぐっていたけど気付いたらアナルに指が入り込み蠢いている。
 本当に零ってばスケベだよな、なんて思いながらも、自分だって相当だなと気付く。
 だから、二人は一緒に居られるのかもしれない。
 僕は自ら脚を開き、零の腰に下半身を擦り付けた。
 零はそれに応えようと、右脚を抱え上げ、腰を進めた。
「あんっ…んぅ」
 零の熱い肉塊が僕の中に押し入ってくる。
 指で入り口を押し広げつつ、そっとその指まで入れてきた。
「イヤ…ムリ…苦し…」
 零の欲望は重量感を増した、僕が苦しむ表情に煽られたのだろう…身に覚えがある。
 繋がれた楔と共に出入りする零の指を、僕は次第に受け入れ、飲み込んだ。


「…ムカつく…」
 え?
 今、聖は何と言った?確かムカつく…と、言わなかったかな?
「だって!僕は夕べ隼くんに会えなくて独り寂しく寝ていたのに、二人はさっきまで仲良く交わってたなんて…悔しい!」
 やれやれ。
「都竹くんとデートしないの?」
「振られた。実家に帰らないといけないんだって。」
 聖、それだったら僕には何にもしてあげられないよ。
「見合いかもよ」
 零が聖に冷たく言い放った。
「…それも良いかも知れない。」
 聖は小さな声でつぶやいた。
「隼くんに、良い人がいたら紹介してあげて。そうしたら僕も諦めがつくしね。」
 聖。なんだかとっても切ない話だよ。
「なら、振ればいいじゃないか」
 零!
「零くんは相思相愛の陸を振れる?」
「振る必要が露ほどもない。」
「僕だって!」
 言い掛けて躊躇う。
「なんだよ?」
「そうだよね、僕からさよならって言えば、隼くんは会ってくれなくなるよね。」
「だから!」
 零が声を荒げた。
「都竹を嫁にもらえって言っただろう?」
「…甲斐性無いもん…」
 意外だ。聖がそんなことを気にしていたなんて。
「僕が養ってやる。」
「えっ!」
 …思わず声が出てしまった。慌てて両手で口を押さえた。
 零はちらりとこちらを見たが、
「ライバルは少ない方が気が楽だからな。これで二人消せる。」
と、わけが分からない説明をされた。
「聖は都竹が好きなんだろ?なら先のことは考えなくて良い、当たってこい。」
 聖は少し躊躇ったが、笑顔で頷き、部屋へ電話を掛けに行った。
「で?二人はどこに住むの?」
「誰が同居させるって言った?みかんのこともあるしな。」
 そして、零は不敵に笑うと、僕の身体を抱き寄せ、耳元で「陸は誰にも触れさせないよ」と、真面目なんだか不真面目なんだか分からない口調で囁かれた。
「ちょ…隼くん!待って…あ…」
 その時、聖の部屋から大きな声がした。
「陸!隼くんが、仕事辞めて田舎に帰るっていうんだ。もう、僕にも会わないって。また、振られちゃったよ…」
 携帯電話を握りしめてポロポロ涙をこぼしながら僕の胸に飛び込んできた。
 僕はどうしたらいいのか分からず、ただ聖の頭を撫でているだけだった。
「…聖、さっきから気になっているんだけど、川崎だし会いに行けば?」
 何気に一言、言っただけなのに。
「嘘!隼くんの田舎って川崎なの?知らなかった…」
 あれ?まずかったかな?
「…車、だそうか…」


 新年早々、家族でドライブ。零が黙って助手席に座っている。上手く行ったら川崎大師で初詣も良いな。混んでるかな?
 一時間ほどで都竹くんの実家がある、神奈川県川崎市に着いた。
「僕が行こうか」
 車をコインパーキングに停め目的地へ向かった。
 インターホンを押すと直ぐに女性が現れた。
「初めてお目に掛かります、野原陸と申します…あ、あけましておめでとうございます」
「いえいえ、初めましてじゃないんですよ〜」
 …都竹くんのお母さんと思われる人は、僕の話を全く聞く気がなかった…。
「あの!お話中すみません、僕、加月 聖といいます。いつも隼さんにはお世話になっております。」
 聖は待ちきれなくなり、会話に割り込んだ。
「隼さんはご在宅でしょうか?」
「ご在宅です。」
 背後から、クスクス笑う都竹くんが現れた…。


 その後、都竹くんと聖は二人きりで自室に籠もり、零と僕は都竹くんのご両親の話を延々と聞かされていた。
 解放されたのは三時間後だった。


「長い時間お邪魔して申し訳御座いませんでした。普段勉強を見ていただいて居るので、やはり隼さんにお伺いしたくて押し掛けてしまいました。ありがとうございました、お陰で判りました。」
 聖は来訪の理由を述べた。
 しかし、それだと僕らが役立たず…と言うことなんだよね。複雑…。


「陸。年末のテレビ番組で大晦日は日の出前に寝ると白髪になるってやってたんだって。だからカウントダウンライブは問題ないみたい」
と、今仕入れた情報を語り始めた。
「聖、情報番組の話はもういい、都竹のご両親…母親から散々聞いた。」
 零はウンザリ顔だ。
「あれ?そういえば隼くんと夾ちゃんは同級生なんだよね?なんで実家は川崎なの?」
「大学時代に父方の祖母が一人暮らしになったから戻ったと聞いたよ。都竹くんは一人で東京に残ったんだって…って、そんな話はしないの?」
 聖は照れ臭そうに告げる。
「隼くん、僕と一緒にいても自分の話はしないんだよね。大体勉強のことだし。」
「いつ愛を語るのさ?」
「あんまりないかな?」
「ない?」
 内心、『あんまり』の方に食いついていたのだがとりあえずスルーした。
「うん。僕がお願いしないと言わないよ。」
 都竹くんはどんな顔をして聖に愛を語るのだろうか・・・今度聞いてみよう。
「陸、絶対に止めたほうが良い。」
「えっ?」
「…今のは僕でも分かったよ。隼くんが可哀想だから苛めないでよ。」
 聖にそう言われたら、僕だってそれ以上は出来ないよ。
 だけど・・・気になる〜。