午前一時の告白
 時計の針が深夜十二時を差した。
 ラジオからは定刻にいつもの声が流れる。

 こんばんは。春とは言え、なんだか冷え込んでいますがちゃんと暖かくして聞いてくれていますか?加月零のナイトエンジェル、今夜も最後まで
お付き合いいただけると嬉しいです。
 
さて、今夜のパートナーは世界のトップモデルとしても活躍中の初です。

 なんだよ?なんだかいつもと調子が違うんじゃないか?

 うん。今夜はさ、プライベートな話をしようかと思ってるんだ。

 なんだよ?プライベートって。まだマスコミにも知られていないこと?

 いや。

 …じゃあ、あれか。遂に話す気になったんだ。

 うん。何処で話したらいいか悩んでいたけど、やっぱりここが一番いいかなと。ライブとかだと人数限られるしね。

 そーだな。まあいつか話さなきゃならないとは思っていたけど、今夜なんだ。

 まあ、話は追々するとして、まずは一曲目、アクティブのサードシングルを聴いてください。

 サードシングルって言ったら、

 わかったから、邪魔しない。どーぞ。



 ラジオからは懐かしい曲が流れてくる。この曲は僕が書いた曲だ。
 零に片想いしていた頃の作品は聴くだけで涙が出そうなくらい切なくなる。

 来月のセコンズでこの曲をやるので、今ラジオの向こうで聴いているメンバーは予習しておくように。なんてね。

 え!
 そりゃあ、センチになっている場合じゃないな。
 それから零と初ちゃんはリスナーからの質問や前回のツアーの話などで盛り上がっていた。

 次のメール。
 零のプライベートな話はいつですか?気になって眠れません。

 寝ちゃうんですか?ならもう少し引っ張ろうかな…なんて嘘です、そろそろ、うん。

 頑張れ

 えっと…。実は、好きな人がいます。
 好きな人って言ったら片想いみたいですね。
 …ずっと、片想いでした。
 産まれてくる前から気になる存在でした。
 無事に産まれてきたのに、僕の前から消えたんです。
 側にいてくれると思っていたのに、居なくなりました。探しました。五年、掛かりました。
 見つけた瞬間、この子だって分かったんです。
 それから何かにつけて近くに行くようにしました。
 あの子はよく懐いてくれました。
 でも。言えなかった。
 好きだなんて言えなかった。
 好きで好きで、気が変になりそうなくらい好きで。だから逃げたんです。
 もの凄く道を逸れました。
 だけど、僕はあの子に刷り込みをしてしまったみたいです。
 ある日、突然、あの子は僕の腕の中に飛び込んできました。


 
しばらく、息づかいだけが聞こえていた。

 
零、放送事故になる。

 ああ、ごめん。

 僕が言おうか?

 大丈夫。

 
大きく息を吸い込んだ。

 デビューしてからしばらくして、一緒に暮らしています。
 ファンのみなさんには分かったと思いますが、きちんと名前を言います。
 野原 陸
 です。
 僕は陸を愛しています。
 同性じゃ、ダメですか?
 許されないんでしょうか?
 なら僕は地獄に堕ちても構わない。
 陸を手放すことは出来ません。
 僕の半身なんです。
 今まで言えなくてすみませんでした。


 すっと、最新シングルが流れてきた。
 片想いしている男の子の切ない気持ちを歌っている。


 零、プロポーズはなんて言ったんだよ?

 え?なんてって、普通に結婚してくださいって…初は違うのか?

 陸はなんて答えたんだ?

 無視かよ。秘密。

 …これからはマリッジリング、堂々と着けたらいい。

 わかったから、もうこの話は止めよう、照れくさい。

 最初に話すって決めたんだから全部話したら良いじゃないか。取材受ける手間も省けるしな。

 …初は取材受けたか?

 どーだったかな?忘れた。
 で?みんなの関心は「いつ結婚したんだ?」ってことみたいだぞ?メールが次々やってくる。

 いつ…陸が二十歳になったとき…かな?


 …え?忘れたの?最初は十八歳の誕生日だよ。

 …舞い上がってた。受け入れてくれるとは思わなかったから。
 あの子はさ、暗くて。兎に角笑わない子だった。笑わせるために色々やったよ。僕には妹と弟がいるんだけど、そっちよりあの子と一緒にいることが
多かった。

 さっきからなんであの子なんだ?

 …照れくさいだけだよ。うるさいな。

 剛志と隆弘だったらもっとうるさいぞ。

 わかってるから初にしたんじゃないか。

 人をなんだと思ってる?

 初。

 はいはい…。

 質問に答えます。
 あ、際どい話は深夜ですが勘弁してください、照れくさい。
 えっと…陸は女性不信だと聞いたのですが零のせいなんですか?
 …多分…一因だとは思います。
 それから、

 それだけかい!

 そこで突っ込む?そんな心的要因はいくら一緒にいたって分からないだろ?

 まあ、そうだけど…

 次は、…どっちが嫁なんですか?
 …基本的に家事は分担しているからなぁ…どっちだろう?

 零、そうじゃないだろ?

 だから、際どい質問は受けない

 ムリムリ

 …両方…これでいいのか?

 …両方なのか?

 …初が知りたかったんじゃないのか?

 まあな

 ドラマで陸が隆弘とキスをしていましたが、嫉妬した?
 滅茶苦茶。だから現場に行きました。現場でずっと見てました。

 ひぇー、隆弘やりにくかっただろうな。

 その件に関しては隆弘に確認してもらうとして次…は、
 今年のツアーはムリっぽいですか?
 なんで?大きな箱はムリかもしれないけど通常サイズなら行けると思うけど?だめ?

 林さんはどーするんだろ?斉木くんに確認しておくよ…って今ごろ言ってるんだからないのか?

 辰美くん、どーなの?え?まだ告知出来ないの?うん、来週?了解。来週報告出来るそうです。


 いつの間にか話はツアーのこととなり、聴きたい曲のリクエストになっていた。

「知ってる?ロシアでは同性愛を公共の場で公表したらいけないんだって」
 自室でラジオを聴いていた聖が、いつの間にかリビングのソファに居る僕の横に来て一緒に聴いていた。
「なんかこの間ネットのニュースで見かけた。」
「日本人で良かったね」
「本当に」
 僕は普通に世間話として聖と話していた。
 だけど聖には違っていたらしい。
「零くん、ずるいよね。自分だけ大々的に発表しちゃうなんてフェアじゃないよね・・・」
「聖?」
「・・・僕が・・・」
 突然、抱きしめられた。
「せい?どうしたの?」
「零くんはずるい。僕、もう直ぐ受験なんだよ?受験が終わったら16歳になるんだ・・・約束したじゃないか。16歳になったときにまだ陸のこと好きだったら・・・」
「待って、聖。だって都竹くんは?」
「努力した。一番に好きになるよう努力した。だけど、やっぱり陸には敵わないんだ。・・・好きなんだ、陸。」
 聖の唇が僕の唇を塞いだ。
「ん・・・んんっ・・・駄目っ。」
 必死で聖の身体を引き剥がした。
「なんで?どうして僕なの?」
 肩で息をしながら、僕のことを必死な瞳で見詰めている。
「夾ちゃんと僕の違いはなに?零くんと僕の違いはなんなの?」
 ・・・答えられなかった。
 僕には、何も答えることが出来なかった・・・。