やっぱり君が好き
「やっぱり押し切られたか」
 今夜は零がレギュラーで担当しているラジオ番組の日。二週間前にカミングアウトした番組だ。
「陸、提案したのは俺だ、零じゃない。」
「更に指示したのは僕です。零さんは被害者です。」
 剛志くんと斉木くんが互いを庇うように零をフォローしてくれる。僕にしばらく番組を休めと言ったことだ。
「ありがとう。でも大丈夫だから。」
「俺も一緒にブースへ入るからな。」
 僕は笑顔を作った。しかしかなりひきつっていたと思う。
「剛志くんも大事な人を守りたいでしょ?僕もなんだ。」
 他の人に悟られないように斉木くんの名は伏せた。
「風当たりが強いなら盾になりたい。それくらいならできると思う。」
「零の後ろに隠れるようにしてやってきた少年はギターを弾くことと零を慕うことだけは誰にも負けなかったよな。今でも変わらないんだ。」
 剛志くんが僕の肩をポンと叩いた。
「剛志」
「はいはい、気易く触るな…だよな。」
 零はびっくりしたような表情を浮かべて、急いで顔を俯けた。
「いや、いいんだ。」
 耳が真っ赤だ。
「ずっとこんな調子だったんだぜ。」
 え?
「だから、陸がACTIVEに来てからずっとこんな調子だったんだ。…すぐに気づいたよ、零は陸が本当に可愛いんだなって。」
 今度は僕が俯く番だ。
「零は僕が小さいときから心配症だよ?」
 流石に隆弘くんも呆れ顔だ。
「では、本番行きますか」



 それと時を同じくして。
「聖…くんがそうと決めたのなら構わない。」
 聖は今、都竹と対峙している。
「…どうして?どうして隼くんはすぐに身を引くの?本当は僕なんか好きじゃないんでしょ?」
 その言葉に都竹は過剰反応した。
「…うんと年下で!中学生で、しかも男の子を好きでもないのになんでこんなに振り回されなきゃいけないんだ?良いよ、解放してあげる。ただし、条件がある。
うちの会社と、マネジメント契約をしてくれ。そうしたらキミは自由に学校へも行けるし、受験勉強にもいそしめる。どうだろう?不本意だろうけど、僕がマネー
ジャーをすることになるけどね。」
 聖は都竹に「キミ」と呼ばれたことに少なからずショックを受けていた。
「タレントになるの?」
「契約だけ。別に何もしなくて良い。」
「なんで?」
「マスコミ対策」
 そう言われたら納得するしかない。
「…今夜は帰るよ」
 聖に背を向け、都竹は帰って行った。
 それとほぼ入れ違いに、突然夾がやってきた。



こんばんは、加月零です。今夜のパートナーは陸…なんですが、心配性な剛志が押し掛け来てくれました。



「珍しいね、夾ちゃんがこんな時間に」
「うん。なんだか聖が呼んでいるような気がしたんだ。」
 家の建て替えのために現在は大学近くのマンションで一人暮らしをしている夾が、珍しく実家に帰ってきていたのだ。
 夾が飼っていた犬のササキは二年前、ミドリはその一ヵ月後に天に召された。ミカン以外の仔たちは友達にあげたりして最終的には去勢してしまったので、今は夾
の手元には誰も残っていない。



別に心配性じゃないけどさ、気まずい番組をファンのみんなに聞かせるわけには行かないからさ。



「ミカンは長生きだよね、聖がちゃんと世話してくれているからだ。」
 夾の掌が聖の頭をガシガシと大胆に撫でた。
「折角みんなで家を建て替えているけど、僕はこのままマンション住まいでいいかと思うんだ。」
 聖に言うでもなく、なんとなく独り言のようだったから特に聖は返事をしなかった。
 夾の腕が聖の身体を抱きしめた。
「夾ちゃん?」


なんで気まずくなるの?だって・・・僕たちラブラブだし。

おや、言うね、陸も。

まあね。



「今、聖を抱いたら零ちゃんと陸はどうするだろう?」
「そんなこと、出来ないくせに。」
「うん、出来ない。僕はやっぱり陸を好きなんだ。だから家には戻れないかなって。」
 聖はびっくりしたように夾を見た。
「僕はだからこそ、一緒にいたい。」
 夾が不思議そうな表情で聖を見た。



よし、零を無視していくか。零のどこが好き?

えっと・・・まず声かな?




「実はさ、聖が段々陸に似てきたな・・・って思って。気付いてないか、聖はまだいなかったんだから。陸が小学生の頃、零ちゃんは既に中学生で、学校では僕に陸の
面倒を見ろって言ってたんだよ、実の弟や妹を差し置いて、どうして隣の子なんだって不思議だったけど、昔から陸は美人だったんだ。だからなんとなく納得してた
よ。本音を言えば実紅ちゃんより全然可愛かった。そんな陸に、聖が似てきた。」
 聖の表情が一気になくなった。
「僕・・・が?陸に?・・・だから隼くんは僕のこと・・・」
「隼って、都竹のこと?都竹がどうしたの?」



それから、僕の前ではいつでもかっこよくいようと努力していたところ。

なんだそれ?

ん・・・簡単に言えば、零は僕のことずっと好きでいてくれたってことかな。

陸、いい加減にしてくれないかな・・・

お、零が根を上げだしたぞ。

じゃあもう一個だけ。




「隼くんも、陸が好きなんだ。だからきっと僕の中に陸を見ていたんだね・・・」
 それを聞くと、夾は必死で笑いをかみ殺しながら
「安心していい、それはない。だって聖と陸が似ているなって気付いたのは、僕と実紅ちゃんだけだから。二人の小さい頃からを知らなければ気付かないよ。」
「本当に?」
「聖は陸と都竹とどっちが好きなんだ?」
 見る間に聖が真っ赤になっていった。
「わかんないんだ。陸とも離れたくないし、隼くんとも別れ話をしたけどやっぱり寂しい・・・つらい。」



僕に、大事な家族をくれたこと。



「夾ちゃん、僕はやっぱり陸の中では家族なんだね。」
「夫婦もいずれ家族になる。」
「けど、二人を見ているとずっと恋人同士だもん。」
「確かに。諦めなきゃって思わされる。」
「夾ちゃん、ちょっと待ってて。」
 聖は慌てて携帯電話を握り締めると、都竹の携帯電話の番号を押した。
 …
 …
 …
 考えてみたら車を運転している最中かもしれないと気付き、諦めようとしたときだった。
「委員長が入っていったから、何かあるかもとずっとヤキモキしていた…ダメだな、ホントダメだ。」
「隼くん?」
「会社から、商品に手を出したらいけないって言われているんだ。だからキミがタレントになってくれたら、」
「分かったから。外で話さないで。」
「そうだね、ごめん。」
 すぐに通話が切れた。
 聖は急いで玄関に向かう。
 ドアの外に都竹が佇んでいた。



社会的に批判されるかもしれない、互いの親や親戚に迷惑が掛かるかもしれない。そんな心配があったから公表を今まで控えていましたが、僕たちも
普通に道を歩きたいなって思ったんです。一回、まだACTIVEを始めたばかりの頃に二人で出掛けたことが有るんだけど、とっても楽しかった記憶があ
るんです。それをもっともっと沢山積み重ねて行きたい。そんな感じです。

陸って意外と男らしいんだ。ってオレが言ったらややこしいことになるか?なんだかずっと陸は子供っぽかったからさ、男前な意見も言えるんだって知
ったよ。さて、零にマイクを返すかな。

それはありがとう。全く、二人してスケジュール全く無視してくれて嬉しい限りだよ。









「えっと…どうなってんのかな?この状態。」
 午前5時の我が家のリビングは、ソファとテーブルが隅に追いやられていて、そこに聖と夾ちゃんと都竹くんが川の字になって寝ていた。
「聖と都竹がモトサヤってことは分かったけどな。なんでここに夾がいるんだ?」
「さぁ…?」
 とりあえず、夾ちゃんの横に座ってみた。
「うわっ」
 いつの間にか目を覚ましていた夾ちゃんに、腕を掴まれた。
「相変わらず、可愛いね。」
「ありがとう、でもこの体勢で言われてもなんだか嬉しくないかもね。」
「まぁね、夕べ散々惚気てくれたからね。・・・一人で聞く勇気が無かったんだ。だから聖と二人で聞こうと思ったら、こっちはこっちで修羅場だから参ったよ。」
「・・・聞かなきゃいいじゃないか」
とは、零。
「修羅場に興味はないの?」
「ない。自分に関係ないからな。それより問題はその手だ。とっとと離せ。」
「けち」
「うるさいっ」
・・・と叫んだのは安眠妨害をされた聖でした。