夏の日のエピソード
 夏休み。聖は家でコツコツ勉強…と思いきや、クラスメートと夾ちゃんのマンションに押しかけて勉強会をやっていとかで、ほとんど家に居ません。多分
居ずらいのではないかと思うけど、真面目にやっているなら問題はないんだよね。
「で?課題は終わった?」
 僕も通信制の高校二年に復学したのでやることは一杯。洗濯機を回しながら英単語を覚えるという離れ技を披露しています。
「最近は車の中でも楽屋でも常に単語帳に取られっぱなしだな。」
と、零は不満を訴えています。
「でもさ、試験があるんだよね。」
 文法は大体覚えているけど英単語は増えているんだよね、悲しいことに。
「じゃあさ、零も一緒に覚えない?」
「遠慮しておく」
 流石の零も学校を卒業してから又勉強をするのは嫌みたい。
「夾の気が知れないよ、大学を卒業してまだ研究室に残るなんて。」
 んー、それは僕も同感。
「いつだったか、夾が結婚するって言ってたよな、あれは結局何だったんだ?」
「えっ?今頃?」
 呆れながらも説明した。
「そっか」
 零は納得したのかどうかよく分からなかったけど、それきりその話題には触れなかった。
「陸。」
「なあに?」
「お願いがあるんだ。」
 何だろう、突然。
「この先、どんな事があるか分からない。僕が陸の前からいなくなる時がくるはずだ。だけど、何があっても聖とだけは、その、なんて言うかな、再婚?み
たいな…簡単に言えば聖とだけはセックスしないでってことなんだけど…」
 僕はちょっとだけ零の気持ちが分かる気がする。
「しないよ。零以外の人とは添い遂げたりなんかしない。…もう、零以外の人とはセックスしない。僕には零だけだって分かったから。ゴメンね、不安にさ
せて。」
 僕はそのまま零の胸に顔を埋めた。
 零の腕が僕の背中を抱き締める。
 耳元で「ありがとう」と、何度も囁いた。
 その時、初めて自分が零に対して不誠実なことを言い続け実行してしまったと後悔した。
 これからは零とどうやって楽しく過ごせるか、それだけを考えて行こう。



 僕の通う通信制高校は二部制で、夏休み前に前期の試験があり、なんとか無事に切り抜けられた。
 二部制というのは最近の高校では多いらしく、メンバーに話したら陸は遅れていると言われてしまった。
 学生の夏休みはいつもどこかでライブをする。
 今年は東京のど真ん中にある野外ステージを5日間借りて行う。
 キャパシティは三千人なので重複して来ることが出来ないようになっている。
 そのかわり僕たちも同じ内容をやることに決めているんだけど…。
 初日と二日目は問題なくMCまで全く同じで開催できたけど三日目に事件が起きた。



「それでは次の曲」
「陸〜全教科満点って本当?」
と、会場から思わぬ質問が飛んできて、僕が条件反射で答えてしまったんだ。
「そんな話聞いてないよ?試験結果は夏休み明けだし。」
「陸、」
「あ」
 初ちゃんに言われ、慌てて口を噤んだ。
 予定通りにやらなきゃいけなかったのに…。
 そこから先は演奏までボロボロになってしまった。



「ごめんなさい」
 楽屋に戻ってから僕はメンバーを含めスタッフの皆にも謝って回った。
 台本通りに出来なかった上に演奏までダメだなんてプロとして失格だ。
「やっぱり学校辞める…とか言わないよな?最初に高校に戻って勉強し直せって言ったのはこっちだからな、覚悟はしてる。今日だってそれなりにフォロー
したつもりなんだけど。気付かなかった?」
と、初ちゃんが言ってくれた。
 ちゃんと気付いていた、けど。
「甘えてばかりいられない。零とのことで散々迷惑掛けているのに。」
「学校へ行けと言った時にご褒美だと言わなかったか?それに零と付き合い始めた時にそれも解決済みだ。明日から頑張れ。」
「初ちゃん」
「陸は自分に厳し過ぎだ。たまには甘えたらいい。」
と、言ってくれたのは隆弘くん。
「なんか陸は最初から零にだけ甘えてて俺たちにはいつまでも距離を置いているよな。零と陸のことが責められるなら俺も同罪だ、マネージャーを口説いて
手込めにした。」
 剛志くんまでそんなことを言ってくれる。
「皆、ありがとう。明日は頑張る。」
「そうだよ、明日頑張ればいいんだ。」
 メンバーもスタッフもそう言って許してくれる。
 …しかし、ひとりだけ人の失敗を喜ぶ人が、いるんだ。



「んっ、はぁ…もう、許して…」
 零の腰を跨ぐような格好でお尻を上下させるのは屈辱的だ。
 しかも裸に靴下とうさ耳を付けた格好だ。
 何か失敗をして皆からフォローしてもらうような事態になったら、零の望む姿で奉仕するんだ。
「陸はいくつになっても可愛い格好が似合う」
 言うと腰を突き上げ結合を深くする。
「んあっ」
「もっと、いい声で鳴いていいよ?」
 僕の腰を両手で掴むと更に動きが激しくなった。
「やっ、ダメっ、んっ、んんっ」
 中を抉られあられもない喘ぎ声を上げた。
「あんっ、ああん、んんっ…イクッ」
「僕より先にイっちゃうの?」
「ごめ…気持ちイイ、んっ…あっ、あっ、ああっっ」
ドクンッ
 僕は零の腹に白濁を大量に撒き散らした。
「くっ、締まるっ」
 零が顔を歪めて僕の身体を抱き締め、奥深くに熱い欲望を注ぎ込んだ。



「しかし、」
 すっかり疲弊してぐったりとベッドに突っ伏した僕の背を撫でながら、零が聞き捨てならないことを呟いた。
「匿名でTwitter使って呟いただけなんだよなぁ」
「なにを?」
「えっ?起きてたんだ」
 零は心底ビックリしたという顔で僕を見た。
「な・に・を?」
 観念して白状した。
「試験結果」
「…この間の話、撤回。聖と浮気してやるっ」
「まっ」
 下着を手にすると、僕は黙って部屋を後にし、バスルームを占拠した。
「ゴメン、陸には言っちゃいけないって言われたからちょっとTwitter使ってみたんだ。まさかあんなに上手くいくなんて思わなかった。」
 今の話には問題点が二つある。
「誰から聞いたの?」
「・・・裕二さん。」
 やっぱり・・・。
「あんなに上手く、ってことは僕をはめるつもりだったの?」
「違う、それは違う。」
「でも、零にもペナルティが必要だね。」



 翌日のステージ。
 最後の最後で。
 零は暴挙に出た。



「陸っっっっーっ。好きだぁぁぁぁっ」
 そう叫ぶと僕を思い切り抱きしめた。



林さん、ごめんなさい。