愛のかたち(前編)
「零?」
 聖に隠れてそっと手渡された物はとても小さな物だった。


 クリスマスは聖に振りまわされっぱなしだった。
 年内の仕事は20日で終わりにしちゃったからもう来年の5日迄ずっとお休み。
 その間どこかへ旅行に行こうかと思ったけど止めたんだ、だって聖の保育園は28日迄あるから。
今年が最後の保育園で過ごす年末だからね、ちゃんと行かせてあげたかったんだ。途中で休んじゃうとつまん無いからね。
 そうしたらなんかわがまま放題なんだよ、可愛いからいいけどさ。でもこのままじゃいけないかな?
 もう少しビシッと・・・零が言ってくれるからいいや。
 ということで、僕と聖はずーっと遊び呆けていた。
 いい加減にしろと言う零の怒声で気が付いて2人でクスクス笑いながら下向いてた。クリスマスだけは僕も聖と同じ子供でいたいから。
「ねぇ、聖はサンタさんに何貰ったの?」
 聖はもじもじと部屋に戻って箱を三つ持って出てきた。
「僕にはね、サンタさんがニつもプレゼントくれたの。」
 二つ?だって三つ持っているじゃないか。
 がさがさと最初に開けたのは涼さんからのプレゼント、次が零から。
「これは陸がくれたんでしょ。」
 ニッコリと微笑まれて思わず頷いてしまった。
「だってこの間陸のカバンの中に入っていたから、このお星様。」
 お星様っていうのは包装紙のこと。なんだ、見られちゃったのか。
「それにこのゲーム一緒にやろうねって言っていたじゃないか。」
「そうだっけ?」
 しらばっくれたけど、顔に出てるよな・・・うーん、根が正直だから嘘はつけないんだよ・・・誰だよ、サンタさんなんて子供に教えたのは。
 僕は聖の小さい身体を抱き締めた。腕の中でしばらく抵抗していたけどじきに大人しくなった。
「聖が一番欲しい物は何?」
 そっと呟いた。聞こえなかったらそれでもいいと思いながら。
「んーとね・・・零君と陸がいつも一緒にいてくれればいいよ。」
 散々考えて答えた。
「いつも一緒にいるじゃない。」
 聖が少し俯いてすーっと息を吸い込んだ、そして小さく口を開いたけどそのまま閉じてコクンと頷いた。
 僕はもう一度聖の身体を抱き寄せた。
 ――ねぇ零、零が僕にくれたプレゼントの中で一番嬉しいプレゼントだよ、僕は聖が好き。何処の誰よりも可愛いし素直だし僕の腕にJustSizeだしね・・・でも大きくなっちゃうんだよな、残念な事に。
「ねぇ・・・陸はサンタさんになにもらったの?」
「えっ?」
 ・・・何・・・うーん・・・何ももらってない・・・だって・・・うーん・・・
「僕は良い子にしてなかったから何も貰えなかったんだよなぁ、きっと。」
「良い子じゃなかったの?何したの?」
「折角パパが行かせてくれた学校辞めちゃったから。」
 咄嗟に思いついた嘘にしては上出来・・・かな?
 すると僕の腕の中からするりと抜け出してパタパタと部屋に入っていった。そして戻ってきた手に抱えていた物は・・・。
「陸にあげる。」
 俯いたまま僕の手に押し付ける様に渡された。
 それは聖が一番気に入って毎日抱き締めて寝ていたウサギのぬいぐるみだった。
「だって聖、この子気に入っていたじゃないか。」
「うん、でも陸の方が・・・可哀想だから。」
「ありがとう。」
 優しい子に育ってくれてありがとうね、これからも傍にいてね。
 僕はウサギさんにキスしたあと、聖の頬にもキスをしたら・・・又ぶたれちゃったよ。




 なんだろう?これ?
 夕食のテーブルに着く直前、零の手から直接僕の手に握らされた。
 顔を上げて零に聞こうと口を開きかけたら目が「あとで」って言っていたので止めた。
 短いチェーンに何か丸い物が付いている・・・、無くしたらいけないのでポケットにしまった。




「加工・・・したんだ、あれ。」
 僕が子供の時に零にあげたビー玉、それを半分に切ってペンダント・ヘッドに加工してあった。
「よくやってくれたね、こんなこと。」
 感心して眺めていたら「うん、文句言われた。」と頭を掻いていた。
「一個づつ持っててもいいだろ?」
 珍しく零が僕の胸に顔を埋めてきた、きっと照れた顔を見られるのが嫌なんだね・・・そう思ったからそっと頭を抱えて髪を撫でていた、零の髪苛めすぎちゃったから傷んでるよ、ちゃんとトリートメントしてるのかなぁ、前に面倒臭いって言って洗ったままにしていたのを思い出しちゃったよ。
「聖にもプレゼント貰っちゃったよ、僕ってモテモテだね。」
 ビクッと零の肩が震えた。
「どうしたの?」
「陸・・・嫌だ、誰だって嫌だ、やっぱり嫌だ。」
 どうしちゃったんだよ、零・・・
「僕以外の人の前で笑わないで。例えそれが聖であっても嫌だ。」
 零・・・。
「なんでだろう・・・陸を好きな人は許せるのに陸が好きな人は許せない・・・陸が好きなのは僕だけじゃなきゃ
嫌なんだ・・・ごめん、わがままで。」
「だめだよ、僕には好きな人が沢山いるもの。」
「嫌だ。僕のことだけ考えて、僕のことだけ・・・愛してて。」
 零の唇が僕の唇を塞ぎにきた、でも僕はそれを拒んだ。
「零、人の心に命令は出来ないよ。」
「陸・・・」
 ちょっと不満気な顔が僕を見つめた。
「零が好き、聖が好き、パパが好き、初ちゃんも剛志君も隆弘君も林さんも好きだよ。
 ・・・だけど抱き締めて抱き締められて僕の全てを投げ出してもいいくらい好きなのは零だから、そんな悲しい事言わないでよ。」
 僕のほうから唇を重ねた。
「零と僕はこのビー玉と一緒だよ、もともと一つの物だったのに二つに分かれてしまった・・・だから・・・一緒でいたいんだ。」
 うー・・・恥ずかしい・・・誘っているようだ。
 案の定そのあと嬉々とした零に組み伏せられたのは言うまでもない・・・。
 二つに別れたビー玉は僕の左腕と零のポケットに別々に存在するようになった。





 12月29日。昨日無事に保育園の終業式が終ったので今日から3人でのんびりお正月を過ごそうと買出しに行くことにした。
 年末の街は誰もが忙しそうに歩いていて僕達もその中に紛れていても誰も気付かない、なんか楽しい。
 聖が欲しがったのはお菓子ばっかりで零に怒られていたけどその横で僕が買ってあげちゃったのは・・・だめ?
「5日まで買い物に出ないの?だったらもう少し野菜とかも買っておかないと・・・。」
「いいよ、3日は実家に行くだろ・・・」
「えっ?家に帰るの?」
「帰らないの?」
 うーん・・・帰りづらい・・・って顔をしていたら、「止める?」って聞かれた。
「ううん、大丈夫だよ。ママにも会いに行かなきゃ、怒られちゃうもんね。」
 聖が僕も?って顔をしてこっちを見ていたから「うん」って言ったら戸惑った表情で固まってしまった。
「大丈夫だよ、聖。置いて来たりなんてしないって。」
 それで安心して微笑んだ。聖は何時だったか涼さんが引き取りたいって言ったのを忘れられないらしくて実家に帰るのを凄く嫌がる。これで来年引越ししたらどうなっちゃうんだろう。
「でも『3日間』も行っていたら迷惑じゃないかな?」
「誰が3日間なんて言ったんだよ、日帰りだって。」
 あ、そう。僕の勘違いね。
「だったら1日に行こうよ、それが礼儀ってものじゃないの?」
「行けたらね。」
 この科白の意味がわかるのは当日になってからだった。
 いくつもの買い物袋を車の中に放り込んで・・・誰が料理するんだ?たまには零も手伝ってよ、駄目なら掃除をやってくれないかな・・・。





「零っ、聖っ、何処行っちゃったんだよ〜ったく面倒臭い事は全部人に押しつけて〜ぇっ。」
 こういうときはあの二人、息が合うんだ。うーん・・・いいんだ、いいんだどーせどーせ・・・、とりあえず掃除からしようかなぁ・・・。
 なんて溜息をついていたら二人が帰ってきた。
「ちょっと遅れたクリスマス・プレゼント」って聖が言いながら僕に手渡してくれたのはぬいぐるみのついているキーホルダー、いつもバックに付けておいてね、って可愛い声で囁かれちゃった。ありがとう。
「じゃあ、大掃除開始だからね。」
 急いで逃げ出そうとした二人を捉まえて、いざ大掃除のはじまり〜。



「2度目のお正月だね。」
「うん」
 2度目のお正月、だけど3人で始めて迎えるお正月。去年はクリスマス・イブにだけ、聖がいたから。
 お正月は涼さんとママのとこに帰って、ちゃんと僕達のところに来たのは1月4日。
「聖?」
リビングでテレビを見ていたはずなのに何時の間にか絨毯の上に転がって寝ていた。
「風邪引いちゃうよ、ねぇ、除夜の鐘・・・」
 ポンポンって肩を叩かれた。
「寝かしときなよ・・・どうせ起きてても邪魔だし。」
 邪魔?何で?
「だって初詣に行くんでしょ?」
 零が首を振る。
「行かない」
 行かないって・・・?
 どっこいしょ・・・って声を掛けて聖を部屋に連れていった。
 5分ほどして戻ってきた零は家中のアルバムを抱えていた。
「今までのこと、ちょっと振り返ってみない?・・・朝まで」
「零のも僕のもちっちゃい頃のアルバムは実家に置いてあるのに?」
「そんなことどうでもいいんだって・・・とりあえず今日までのことは今日で清算しよう、そして明日からまたはじめよう・・・除夜の鐘って108つの煩悩を払うって意味なんだってさ、人間108つも煩悩を持っているんだな、凄すぎ?」
 珍しく声を立てて零が笑う。
「・・・僕は109つの煩悩を持っているかも・・・」
 ニヤッと笑う。
「どっかのデパートみたい。」
 零の背中に顔を埋めた。
「全部・・・忘れていい?零のこと以外全部忘れちゃっていい?」
「うん・・・僕も陸以外全部忘れる。」
「僕は・・・忘れられちゃうの?」
「聖」
「おいっ」
 ・・・何時戻ってきたんだろう?ソファの前にクッションを敷いてちょこんと座っていた。
「除夜の鐘聞くんだ〜」
 零は渋々立ちあがって出かける支度を始めた、家からはちょっと聞こえないからね。



「ねぇ、これは?何個目?」
「知らない」
「えーっ、じゃあ・・・これは?何個目の鐘?」
「わかんないよっ」
 コントのようなやり取りをしている二人を、僕は後部座席から見ていた・・・そして何故か来年18歳になったら車の免許を取りに行こうと思ったんだった。
「あと30秒だよ、聖、来年になるよ。」
「えっ?なんで?どうして?」
「ほら、5,4,3,2,1・・・明けましておめでとう。」
 目を白黒させて聖が戸惑っている。
「あーっ、もうっ。」
 なんか零がイライラしている。
「道が混んでいるから帰ろうか、近くの氷川神社で初詣しよう、ね、聖。」
 ・・・返事が無い。
「寝てるよ、もう。」
 えっ、だって今まで騒いでいたのに。
「初詣は夜が明けてからで良いや、早く帰ろう、寒い。」
 玄関に辿り着いたとたん聖を背負ったままの僕を零の腕が抱き締めに来た。
「0時丁度に言いたかったのに・・・『おめでとう・・・今年もよろしく』ってね。」
「なにを『よろしく』するの?」
「全部。」
 僕は・・・笑っちゃったよ、ごめん。
 このあと僕達は本当に夜が明けるまで昨日までの二人の話を延々としていたんだった。
 そして朝日が部屋に差し込んできたとき、年明けから初めてのキスをした。





 10時位までひたすら眠っていた、で、午後から3人で初詣に行ったんだ。
 でも夕べ(今朝と言うのかも?)遅くまで起きていたから、眠くって僕は又ベットに潜り込んじゃった。
 その晩は当然の様に零は初Hっていうし・・・いや僕もしたかったんだけど・・・。だから翌日も当然朝寝坊しちゃって、零の言う通り実家に帰れたのは3日だった。

 

『愛のかたち(後編)』へつづく