野原陸、女優と熱愛か?
加月零と結婚宣言した野原陸が女優と手つなぎデートの決定的瞬間
やはりゲイはポーズだったのか?野原陸、女性と真剣交際
「何?これ?」
朝からTwitterに僕の名前が流れまくっている。
「女優っていうんだから女の子だよね?零ならいざ知らずなんで僕?」
ぶつくさ言っていたら後ろから零のクレーム。
「聞き捨てならないな」
「ねえ、見てよ」
零のクレームは無視してスマホの画面を見せた。
僕、女の子嫌いなのに。
「この写真、誰?」
写真が載っている呟きがあった。
「どれ?あ?」
このシルエット、記憶にある…誰だっけ?
「『陸さーん、ファンなんです』ってやってきた、小さい事務所の汚い女…かな?」
僕には零狙いに見えたけど。
「嵌められたか?」
「なら、この記事は今日発売の週刊誌の見出しだ。斉木くんに連絡しないと。」
会社からクレーム入れてもらわないとならない。
「もしもし?ごめんね、剛志くんと一緒だった?あ、そーだよね、うん。あ、そうそう、僕の記事が週刊誌に載ってるみたい。」
斉木くんをからかおうとしたら怒られた。
少しくらい乗ってくれてもいいのにな。
「そう、それ。」
斉木くんもスマホを開いてTwitterを確認したようだ。
「その女知ってる?」
『モデルの莢ですよ。』
「あ、夾ちゃんと同じ様な字を書いてさやと読む子かぁ。」
汚いって言って後悔した。彼女は礼儀正しいいい子だった。
「どうしてこんな事になったか調べてくれる?」
斉木くんにお願いして電話を切る。
「莢って子、今度女優に転身するんだってさ。」
僕が電話をしている間に零が調べてくれていた。
「陸が狙われたんだな、相手としては面白いからな。」
零が不機嫌なのは僕のせいじゃない。
父の経営している会社も芸能事務所だし、大きくはない。同じようにこの業界には小さい事務所がゴマンとある。
この小さい事務所に所属していると仕事を獲得するために色々な手段を駆使する。
今回のスキャンダルも多分この色々な手段の一環だろう。
「はぁ…」
めんどくさい。
**********
私は今、恋をしています。
3年前から時々スーパーマーケットで見掛ける男性です。
いつも帽子を目深に被っていて、買い物カゴを下げ楽しそうに食材を選んでいます。
確実に自炊しています。もしかしたら料理することを職業にしているのかもしれません。
椎茸を選ぶときも話しかけるように真剣に見ています。
桃の時は手で触れないようにして、周囲を少し見渡し顔を近づけ匂いをかいでいました。私は彼のお眼鏡に適わなかった方をこっそり買って帰りました。
彼に会える日は本当に偶然でしかありません。時々店長と話していたりするので、常連のようです。
帰りは頑丈そうなどっしりした車(車に疎いので車種とかわかりません)で颯爽と帰っていきます。
「はぁっ」
「何?溜息?」
「うん。」
「もしかして例の彼?」
「うん。」
こんな会話が日常茶飯事。
「一度見てみたい!今日行ってもいい?」
「会えなくてもいいなら。」
そうして彼女は近所のスーパーマーケットに着いてくることになりました。
「…いた」
彼女はなんてラッキーなんでしょう、彼がサッカー台にいたのです。
「どれ?って!えぇっ!」
彼女が突然大きな声を出しました。
「やだ、あれ…ACTIVEの陸さんじゃない?」
あくてぃぶのりく…さん?…誰?
っていうか有名人のようです。知らなかった…。
不意に、隣に居たおばちゃんに肩を叩かれました。
「陸ちゃんのことは見てもいいけど声を掛けたり騒いだりはしないでね。ここに来られなくなっちゃって可哀想だからね。」
ここのお客さんたち、彼が何者か知っているのでしょうか?
それより…あくてぃぶのりくさんって何者でしょうか?
彼女とおばちゃんの説明でやっと有名バンドの花形ギタリストだと分かりました。
しかも既婚とのこと。
残念…。
「この子には零さんのこと、黙ってます…」
「そうしてくれる?」
ある日、またスーパーマーケットで彼を見かけました。
すると、彼と目が合ったのです。
彼…ACTIVEの陸さんはニッコリ笑いました。
「よくここで見かけるけど、お家のお手伝い?えらいね。」
え?私のこと知っていた?
「すみません、いつもカッコいい人だなぁってジロジロ見てて。」
「いやいや、全然平気だよ。人に見られる仕事しているから、かなり慣れたしね。それよりさ、そのバナナは何時食べるの?」
私はカゴに入れてあるバナナを見ました。
「明日の朝ご飯で。」
「それは止めた方がいいよ。明日だったら…こっちの方がいいよ。それは3日は待たないと美味しくならない…って、硬くてポキポキしている方が
好きだった?」
「いえ、柔らかくてふんわりしているのが好きです。」
「だったらこっちだよ、うん。」
そう言うと「じゃあね。」と言って去っていきました。
やっぱりすっごいカッコいいです。
あぁ…CD買ってみよう。
不倫?
ゲイ?
女優?
加月零?ってACTIVEの零さん?
なに?何があったの?
折角ACTIVEについて少し知識を得たのに、途端に陸さんの不倫報道?
…それより陸さんの結婚相手が零さんって…ショック。
これじゃあ、どんなに頑張ってもこっちを向いてはくれそうにない。
失意の中、学校へ行くと友達から追加情報が届きました。
「これ、この間のスーパーだよね?」
え?
「ってことは?」
「近所の人?」
「そう来たか!?あなたじゃないの?」
私か。
「って私?なんで?」
「だってさ、このスーパーに来ているお客さんは陸さんが困らないように敢えて距離を置いているって言っていたでしょ?だからわざわざ近づく人間
はいないってこと。それを破るのはあなたしかいない。でしょ?」
「いや、破ったわけでは…向こうから声を掛けてきたから。」
「なにそれ?私聞いてないけど。」
言ってないから。
自分の失態は分かっていたけど、不承不承顛末を語った。
「それって脈ありじゃない?」
「脈ありって、ゲイなのに?」
「あ、知ってたんだ。」
彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。
**********
「陸さん、またスーパーで買い物していませんでしたか?」
斉木くんがため息をつきながら僕の顔を見る。
「スーパーに行かないとご飯食べられないから。斉木くんは行かないの?」
「私はもちろん行きます。いや、そうではなくてスーパーと話が付いているんですよね?宅配。」
「だってやっぱり自分の目で見たいもん」
「そこで女の子と楽しそうに話していたのを撮られたようですよ。」
「へー。ならいいか。女の子と話くらいしてもいいよね?」
「いいですけど…」
とりあえず斉木くんには勝った。
「斉木くんはさ、自分が持っている知識の中で間違っていることは教えてあげたくならない?」
「何のことですか?」
「女の子の話。バナナがね、青かったの。だからそれを明朝食べるのはお勧めしないって…ダメ?」
「陸さんらしいです。」
斉木くんが微笑む。
「じゃあ、種明かしします。今回のタレこみ、多分零さんです。」
「あ、やっぱり?だから見当違いな記事ばかりなんだね。」
「見当違いですかね?」
「そうだよ。わざわざ女の子との記事を書かせるってことは相手がリアルじゃないってこと。例えば、斉木くんとの記事だったらそれこそリアルでしょ?」
言うと僕は斉木くんに抱き付く。
「そして今、その辺でイライラしているはず。」
と、耳元に囁く。
「剛志くん含む。」
斉木くんの身体を解放すると、僕はスマホでTwitterを開いた。
この度はモデルの莢さん、スーパーマーケットの女子高生に多大なるご迷惑をお掛けしたことをお詫びします。僕は相変わらず零一筋ですし、
家族が大事ですので、今のところ不倫の予定はございません。その辺を含めて今後ともよろしくお願いいたします。
送信。
僕が発言しちゃったけど、良いよね。
あー、すっきりした。
それと、今夜は帰ったら零に説教しないと。
時々訳が分からない嫉妬をして世間を巻き込むからめんどくさい。
そりぁ、僕だって時々嫉妬はする。
それが剛志くんだったり、初ちゃんだったり、全く別の人だったり。
だけど。自分の愛した人だから信じている。
疑ったり、問い詰めたりするけど、それは信じているからであって、決して心が離れたわけじゃない。
大体心が離れてしまったら嫉妬すらしないはず。
…ということを延々と説いてやろう、うん。
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スーパーマーケットの女子高生、それが私のあだ名になったけど、私は嬉しい。
陸さんの記憶の中に私という女の子が存在しているのだから。
また、会いたいなぁ…。
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