アイシテルヨと囁いて
「また?」
 ま、確かにそうだけど。
「夾ちゃんに教わるのがベストでしょ?」
「まぁ、なぁ。けどさぁ。」
 ああもうっ、煮え切らない!
「なら聖にそう言えば良いじゃないか、夾ちゃんの邪魔をするなって。」
「陸は!…何でも無い、ごめん。」
「零の、馬鹿。」
 僕はそのまま零の胸に飛び込んだ。
「愛してるんだ、貴方を、貴方だけを。」
 零の腕が僕の身体を抱き寄せた。
「うん。僕も、ごめん。愛してる。」
 そのまま両手で力任せに頭の角度を変えさせられ、深く口付けられた。
 口角から唾液が滴り落ち、顎を伝って首まで流れている。それでも飽くことなく貪り続ける零。
 とうとう息が継げなくなり、零の胸を押し返した。
 激しく息継ぎをする僕を見て、再び謝罪の言葉を口にした。
「大丈夫。ただ久しぶりだったから。」
 そうなんだ。
 最近何かと忙しい日々を過ごしていたので、余り性生活は充実していなかった。前は毎日抱き合っていたのに…。
 あ。なんだか欲求不満みたいだな。
「何赤い顔してんの?」
 零がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んだ。
「最近ご無沙汰だなぁって。」
 別に隠すことでも無かったので、ストレートにそう伝えた。
「そうだよな、うん。」
 そう言うとスッと立ち上がり、僕をひょいとお姫様抱っこした。
「聖もいないし、しよ?」
 …その、しよ?って言い方、反則。凄く可愛らしい。
 思わず抱きついてしまった。
「うふふ」
 そして、ニヤけてしまった。



「だーめ、今夜は僕が服を脱がすの。」
 なんだか、一緒に暮らし始めた頃みたい。
「陸…ずっと、好きだよ。」
「うん、僕も。こんなエッチなこと言う時のエロい顔した零も、ステージで歌う格好つけてる零も、風邪は引いて寝込んでる零も、みーんな好き。」
 零が、照れ臭そうに笑う。
「僕も、イキ顔の陸も、怒り顔の陸も、美味しそうな顔の陸も全て好きだよ。」
「ありがとう。」
 そんなことを言い合いながら、互いに着衣を脱がし合う。
 素っ裸になり、どちらからともなく、キスをした。
 ミュージシャンなのに、セックスの時に音楽もなくただ二人の声と息づかいだけを耳にする。
「んっ」
「んふっ」
 なんだろ、今夜の僕、キスだけでイケるかも。
 でも…やっぱり欲しいなぁ。
 零はしびれを切らしたように僕に体重を預けて押し倒した。
 太ももに指を這わせてゆっくりと撫で上げる。
「んうっ」
「気持ちいいの?」
「ん、」
 僕は首を縦に振ることで答を理解して貰おうと見詰める。
「だーめ、ちゃんと口にして?」
 まだ触れられてもいないのにすっかり屹立したそれは、反り返っていた。
「焦らさないで、触って欲しい。」
「よく出来ました。」
 唇にチュッと音を立ててキスを落とすのを合図に、そのまま深く口腔を抉られた。
「んっ、んっ」
 舌の根までねっとりと嘗め回されている最中に、右手の親指が敏感な部分の先端に触れた。
「んんっ」
 電流が走り抜けたような感覚だ。
 思わず下半身が跳ねた。
 延々と続く口付けに息が出来なくなって苦しいのと、刺激されている先が歓喜の悲鳴を上げているので身体から無駄な力が抜けていく。
「んふっ…ふっ…んっ…」
 喉の奥で喘ぐ。
 名残惜しそうに唇を離すと、今度は全身にキスの嵐を降らせる。
「いやぁ…んっ、すごっ」
 継続的な刺激を欲する先端から指が離れた。
 固く閉じていた瞼をゆっくりと開くと、零がクルリと身体を反転した。
「え?」
「跨いで。」
 あ、そう言うことね。
 僕らは互いの性器を万全の状態にするために、互いの持っている術を出し尽くす。
 先ほどまで零に翻弄されていた唇と舌は、今度は零を翻弄する。
 時々小さく喘いでいる。
 僕も零の指と舌でゆっくり解き解されていった。
「零…」
「何?」
「欲しい…」
「うん、僕も。」
 今度は僕がクルリと反転させられ、ベッドに転がる。
 そのまま大きく脚を開かれると、一気に貫かれた。
「ああっ」
 聖がいないと知っているので、僕は大胆に声を上げた。
「零っ」
 こんな時に言うのはなんだか変な気がするけど、どうしても言いたい。
「好き…愛してる。」
 部屋の中は相変わらず無音だったので、僕の息遣いと喘ぎ声、零の息遣いとため息、そして淫らな水音が絶えることなく続いている。
「あはっ…んんっ…好き…」
 その言葉に答えるように零は突き上げる。
「あっあっ…」
 もう互いにどこをどうしたらイイのか、どうなったらイクのかなんて知り尽していた。
 それでも「ここがイイの?」とか「気持ちイイ?」とか聞いてくるところがなんだか嬉しい。
「うん…イイ、イイんだ…あっ、イクっ」
「僕も、イクっ」
 互いに抱き合いながら果てた。
 実に…三日ぶりのセックスだった。
 …僕らに三日以上間を空けろというのは無理難題である…。



 朝、いつも通りに目覚めて、朝食の支度をしようと寝室をあとにした。
「おはよう」
 そこには、やはりいつも通りの聖がいた。
「おはよう。何時に帰ってきたの?」
「21時くらいだったかな?」
 21時?
 夕べは、夕御飯は外で食べてきて、家に着いたら聖がいなかったから零が拗ねて…微妙。
「二人は寝てたよ。」
 意味深。
「別に、気にしてないから。」
 確定。
「昨日さ、夾ちゃんちに都竹くんが来た。」
「え?」
 次から次へと爆弾を投下してくるなぁ。
「二人で僕を攻めまくるんだよ、違った、責めるんだよ。」
 待った、今のは態とだよね?攻めるって?責める?何を?
「大学、志望校変えたから。」
「何その話!」
「あれ?陸に言わなかったっけ?京都の国大。」
「聞いてない!って、行けるの?」
「行くの!」
「学部は?」
「コミュニケーション部生活科」
「なに?それ?」
「僕が受験する年に新設される学部。」
「でも、京都って…嫌だよ、聖が遠くに行っちゃうの…」
「親離れ、させて下さい。」
 聖が頭を下げた。
「都竹くんとは、本当にもうなんのわだかまりもなく会うことが出来たんだ。新しい恋を見付けるために遠くへ行きたい。」
「なら、」
 背後から声がした。零だ。
「東京大学の政治経済学部に受かったら、行っても良いよ。」
 ええっ!
「それは!…わかった、頑張る。」
 何受けてんの?聖?
「それから、夾の所ではなく、塾に行け。」
 あ、遂に言った。
「うん、分かった。」
 聖の目が、真剣だ。
 本気で大学受験を考えているみたい。
「そうそう。浪人もNGだから。」
「え?」
「そうだろ?自信があるから受けるんだろ?だったら次を考えるのはおかしいだろ?」
 うん、零の言うことは正論だ。だけどハードルが高すぎる。
「受からなかったら…この街で就職する。」
「わかった。」
 二人の間で話が付いたみたいだ。
「…なら、僕は聖の受験、邪魔するだけだな。」
「なんで?」
 聖が不思議そうに僕を見る。
「だって、遠くに行かないんだろ?」
「それは…ずるいよ。」
 そう言いながらも、聖は笑っていた。
「陸。」
「ん?」
「僕ね、零くんも陸も、愛してるよ?」
「僕だって聖のこと愛してる。」
「うん。だからちょっとの間だけ、時間が欲しいんだ。」
 どれくらい久し振りだろう、僕は聖を抱きしめた。
 懐かしい、聖の匂い。
 もっともっと、聖を抱きしめてあげればよかった。
 そうしたら、ここからいなくなるなんて言わなかっただろうに…。
 聖、寂しいって言ったら、怒る?
くすくすくすくす…
 何故か、聖が腕の中で笑い出した。
「引っかかった…」
 ん?
「陸、今日が何の日だか、気付いていないよね?」
「え?」
「エイプリルフール。」
 あ!
「二人で騙したんだ?」
「ううん。零くんも騙したの。」
 今の言葉は、零には届いていない。
 僕は聖をぎゅーっと思い切り抱きしめた。
「痛いってっ」
「これはお仕置き。それと…安心した。」
「大体、僕が国立の大学に行けるわけないじゃないか。全然勉強していないし。それに…僕は二人が大好きだからここにいたい。」
「うん。いていいよ。ずっと、ずーっと。」
 腕の中で聖が頷いている。
「本当に、良かった。」
 エイプリルフールで良かった…。
 僕は零を愛してる。けど、聖も愛しているから。




 零には…言わなくていいか。