今日は新しいアルバム作りのために、メンバーだけで事務所の会議室に集まっています。
それぞれに曲を持ち寄り、詞をつけたり、譜面に書き出したり、ボーカルを決めるときもあります。
「陸の曲、ロックと言うより80年代のJ-popsだね。」
「歌謡ロックと言ってよ。」
僕の好きなバンドが歌謡ロックと名付けた…らしい。
「涼さんのレコード棚にあったんだ。」
僕は音楽で困ることはない。実家に行ったり、加月家に行ったりすると色んな音を拾えるからだ。
「うちの実家にもある。」
隆弘くんが呟く。
「母親が好きなんだ。」
そう、ロックは男性向けだけど歌謡ロックは女性向けと言えば判りやすいだろう。
更に判りやすくするとしたら…アイドルバンドが歌謡ロック、かな。
「うちの母親も好きだな、歌謡ロック。」
母親の世代は基本好きなジャンルだ。
その上の世代になると洋楽だったりする。
その前の世代だとグループサウンズ。だけどこの時代の音楽、僕は好きなんだ。だってまだまだ音楽に対して発展途上だった時代に一生懸命日本独自の音楽を追求している人たちが作り上げた音楽、今よりずっと弾けているしポップだし、自由度が高いと思う。
歌謡ロックの原型だしね。
「なんだか陸が歌謡ロック押しできているようだから、次のアルバムはそれで行ってみる?」
初ちゃんがポツリとつぶやいた。
「えー、そんなに資料がない。」
反論したのは隆弘くん。
「ドラムが何反論…あ。」
そうなのだ、80年代popsと言ったらテクノ。デジタルドラムが手に入るかどうか…。
「スタジオに行ったら借りられないかな?」
「それなら涼ちゃんに頼んだらいいよ、バンド仲間が持っている…あ。」
再び、そうなんだ、ドラムは基本、フルセットでメーカーから借りる。
つまり、個人で持っていることはプロではあまりない。
「アマチュアか金持ちに借りればいいじゃないか。」
80年代に活躍した金持ちのバンド…。しかもテクノ。
「メーカーで持ってるよ。」
剛志くんが声を大にして発言した。
「隆弘だって気付いているだろ?いつも借りているメーカーがどれだけ大きな倉庫を…あ。」
三度、そうなんだ、メーカーは新しい商品を宣伝してもらうために貸し出してくれる。古いものは置かない。
「えっと…」
やっと僕の出番だ。
「きっと、ウチと言うか実家にある。」
更に言うと父が買って全く使わないままずっと僕の部屋のウオークインクローゼットに置いてあったから、多分あるはず。
父にメールしたらやっぱりまだあった。
何故ウチにあるのかは本当に謎である。
「ウチにも何であるのかわからないものがある。」
そう言ったのは零。
「8mmビデオとそれを投影するスクリーン。きっと母方の祖父母が買ったんだろうけど使ったのを見たことがない。」
僕等の子供時代にはVHSで録画していたようだけど、殆どDVDだからなぁ。
「今まで黙っていたけどさ、ウチには琺瑯の魔法瓶がある。」
初ちゃんがなんだか呪文のような言葉を言っている。
「何?それ?」
「ステンレスボトルの前進。」
へー。
「落とすと割れる…って母親がいうから触らないようにしている。母が小学校の遠足の時に買ってもらってそれ以来ずっと大事に使っているんだそうだ。新しいものの方が性能がいいのにさ。」
ここから話は延々と家にある古いものの話へと発展していった。
それらを総合したら懐かしい映像も撮れそうな感じになって来た。
「いっそのこと、全て歌謡ロックにして、タイトルも歌謡ロック、MVも歌謡曲っぽくしてみたらどうだろう?」
零がそう言ったけど、さてどんな楽曲にしていったらいいか…で難しい顔をするメンバーがちらほら。
「歌謡ロックだったら涼ちゃんが詳しいし、レコードやCDも色々あるから、これから研究してみようよ。時間はまだある。」
すると剛志くんが
「別に知識がないわけじゃないんだ、たださ、耳から入っているからどうしても模倣になってしまうんだ。」
「じゃあ…」
全員の視線を浴びてしまった。
「思い切ってカバーにするとか?」
その時零が面白い提案をして来た。
「涼ちゃんに曲を提供してもらうとか?」
もしかして、初めての共同作業…かも?
斉木くんに頼んで、都内で撮影可能な古民家を探してもらった。古民家と言っても100年とかではなく、50年くらい。
この間僕等の話題に上がった、懐かしいグッズが並んでいても不思議ではない家庭が理想。
そしてMVと言うよりは一つのストーリーとして展開していて楽曲はそのBGMのような扱いにした。
勿論一つずつの楽曲に合うようなカット割りにしている。
最近は映像関係の仕事をすることが少なくなったから、撮られるのは専らMV。
静止画は初ちゃんと剛志くんが相変わらずイケメン枠でのモデル業をやっている。
初ちゃんは家族を養わなくてはいけないと言って、モデルの仕事を受けた。
剛志くんは独り立ちしたいと言って、収入を増やすためにモデルの仕事を受けた。
今は音楽だけでやっていけるけど、それでも彼らには途中で投げ出す無責任なことは出来ないと言って、声が掛からなくなるまで続けると言った。
隆弘くんは皆のように楽器代はそんなに掛からないから自分の生活くらいだったらACTIVEの仕事だけで十分と言いながら、時々声が掛かるとスタジオミュージシャンの仕事をする。これも昔からの縁で、プロデューサーからのたっての希望と言われれば仕方ないようだ。
僕らは相変わらずアイドルとか新人への楽曲提供とかプロデュース業がある。これも昔からの縁だ。こっちをサブとしているので映像の仕事は全部断っている…例え父が入れて来ても断る。
10年という時間を掛けて、僕たちは僕達の道を確立した。
それぞれにそれぞれの家庭を持っているし、それぞれの事情があるけれど、こうやって集まったら、色々話をしてそれを形にして行けるだけの自信もある。
MVだって、手を抜かない。
その為に映像の仕事に関わってきたのだから。
「陸、次のシーンだけどさ…」
また新しいアイデアが浮かんだらしい。
「陸ぅ、何時までこの服装なの?」
詰襟を来た聖が文句を言い始めた。確かに今日は暑いからね。
もう少し、撮影は続くけど、音楽を作り出す作業と同じくらい、僕は映像を作る仕事が好きだなぁ。
そして、ACTIVEとしてこの先どんな可能性があるのか、考えるときが来ているかもしれない。 |